一橋教員の本
鉄格子のはめられた窓 : ルートヴィヒ二世の悲劇
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クラウス・マン作 ; 森川俊夫訳 ; 梅田紀代志絵 |
編集者コメント
ドイツの最高の観光地フュッセンにある高名なノイシュヴァインシュタイン城のほか、パリのヴェルサイユ宮殿をモデルにしたヘレンキームゼーなどの城を造ったルートヴィヒ二世が1886年、パラノイア(偏執病)にかかったと診断され、ミュンヘン郊外のベルク城の“鉄格子のはめられた窓”のある部屋に幽閉され、その翌朝、侍医のフォン・グデンとともにシュタンベルク湖畔を散歩したままグデンとともに水死体となって発見された事件があった。
ドイツのノーベル文学賞作家トーマス・マンの長男、クラウス・マンは1937年この事件を題材にして小説『鉄格子のはめられた窓』を発表した。クラウス・マンは君主制が崩壊し共和政が科学と金融資本とともに支配する時代の到来を絶望するルートヴィヒ二世の内面を見事に描いている。
『トーマス・マン日記』の翻訳に携わった森川俊夫名誉教授がこの小説の翻訳を思い立った動機が興味深い。森川名誉教授は「トーマス・マンは日記の中で自分のホモセクシャルな傾向を書いており、クラウスら息子たちにもこうした傾向が血筋として流れているのかにも注目せざるを得なかった。ホモセクシャルなルートヴィヒ二世は『ローエングリーン』などを作曲したリヒャルト・ヴァ―グナーを愛人としていたが、 彼が去ったあと、ホモセクシャルな役者、ヨゼフ・カインツを愛人にしている。ドイツに限らずホモが明るみになると殺された人が割に多かった時代に同性愛のクラウスは読む人が読めば分かるようにそのあたりの事情を巧みに表現している」と語った。(中村明(森川ゼミOB))