一橋教員の本

ベンヤミン・コレクション7 : 〈私〉記から超〈私〉記へ

ベンヤミン・コレクション7 : 〈私〉記から超〈私〉記へ

ヴァルター・ベンヤミン著 ; 浅井健二郎編訳 ; 久保哲司[ほか]訳
筑摩書房 2014年7月刊行
ISBN : 9784480095985

刊行時著者所属:
 久保哲司(社会学研究科)

著者コメント

 筆者が翻訳チームに加わっている『ベンヤミン・コレクション』のシリーズは、この第7巻をもって完結しました。
 本巻に収録されているのは比較的短い文章ばかりですが、理論的なものではたとえば「宗教としての資本主義」が重要でしょう。「資本主義はひとつの宗教と見なすことができる。すなわち、資本主義は本質的に、かつては諸々の、世に言うところの宗教によって答えが与えられたのと同じ心配、苦しみ、不安を鎮めるのに役立っているのである」。マックス・ヴェーバーに反対してベンヤミンは言います――「宗教改革時代のキリスト教は資本主義の発生を助長した、というのではなく、宗教改革時代のキリスト教が資本主義へと変貌したのである」。
 まったく趣の異なる文章の例をひとつ。映画『上海特急』などで知られる中国系アメリカ人女優アンナ・メイ・ウォンとの「対話」から。「メイ・ウォン――この名前の響きは、一杯のお茶のなかで開いて、香りのないまんまるの花になるごく小さな棒のように、色彩豊かな縁どりをもち、きびきびとしていて、軽やかだ」。
ベンヤミンの文章のどれもが、この名前、この小さな棒に似て、無限に豊かな世界を内に秘めているように思われます。それを開かせるのは読者である私たちです。



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