一橋教員の本
自由民権運動と戯作者 : 明治一〇年代の仮名垣魯文とその門弟
松原真(言語社会研究科)著 |
著者コメント
明治10年代、仮名垣魯文とその門弟は文壇(新聞界)の一大勢力として存在した。仮名垣魯文は『西洋道中膝栗毛』や『安愚楽鍋』によって開化期の庶民の生態を表面的に描いただけの戯作者ではない。魯文が最も得意であったのはむしろそれ以後、新聞人として活動した時代であった。明治10年代と言えば自由民権運動の全国的高揚によって特徴付けられる時代であり、且つ、この政治運動の衰退と入れ替わるようにして近代小説が登場した時代でもある。この時代に魯文達はどのように活動し、そしてその活動はどのように文壇史そして文学史に位置づけられるべきなのか。魯文達と自由民権運動、特に自由党との繋がりを見出しながら、一度は魯文に弟子入りすることを考えていた坪内逍遥が写実主義(近代小説)を唱えて時代を席捲する、少し前の文学空間を再現する。