一橋教員の本
九月の寓話
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張煒著 ; 坂井洋史訳 彩流社 2007年1月刊行 ISBN:9784779112355 本体3,500円+税 | ||
訳者紹介:坂井洋史 |
訳者コメント
90年代以降、激変する社会におけるアイデンティティを模索する中国知識人が、自己省察に基づく確固たる精神価値、すなわち人文精神の確立を唱えたとき、大地に根差しながら、世俗の悪と堕落を峻拒し、民間の生命力を謳歌することで、現代史を批判してみせた本作は、発表直後から彼らの絶賛を浴びました。本作を読まずして、90年代中国文学、文化批評は語れないといっても過言ではありません。作者のキャリアにおいても、一つの到達点でしょう。二十世紀小説として、叙述にも工夫が凝らされていますが、作中に描かれる多種多様の「喪失」に注ぐ作者の愛惜の念に共感することの容易な、暖かな手触りの小説であろうと思います。テクストは強烈な地方性に彩られており、特にその言語(方言)をどのように処理するかという問題が、翻訳に当たって最も苦心した点でした。作者は2000年に本学に招かれ、言語社会研究科で二度の講演を行ったことがあります。