一橋教員の本

「戦後憲法学」の群像

「戦後憲法学」の群像

鈴木敦, 出口雄一編 ; 江藤祥平 [ほか] 著
弘文堂 2021年6月刊行
ISBN : 9784335358180

刊行時著者所属:
江藤祥平(法学研究科)

著者コメント

 本書は、「戦後憲法学」の多様なあり方を、歴史的な観点から描き出した作品です。その特徴は、何と言っても、憲法学という特定の学問それ自体を分析の対象としている点にあります。例えば、「東大学派の系譜」(第4章)、「京大学派の系譜」(第5章)などが描かれています。しかし、これはよくよく考えてみれば不思議なことです。なぜなら、憲法学は法律学であり、法律学とは実践学ですので、実践と離れて学問のみを取り上げるのは、歴史の勉強としてはともかく、普通はあまり意味がないことだからです。そもそも、法律学なのに、学派などのスクール単位で語られること自体が、異様なことです。


 ところが、こと憲法学に関して言えば、それが独立に取り上げられることには一定の意味があります。それは憲法が抽象的かつ相対的な表現を用いている上に、ときに論争的な内容(憲法9条がその典型です!)を定めているために、その意味をめぐって複数の解釈が展開されるからです。しかも、自然科学の場合とは違って、その解釈は学者のみならず、裁判官や政治家、それに一般市民によっても行われます。そうすると、どうしても学問の自律性が試されることから、裁判や政治の動きに対応して、「学派」のようなものも生まれてくるのです。


 もっとも、これは学問内部のことですので、外側からは見えづらく、そのせいで一面的に語られることもしばしばです。例えば、東大の憲法学が戦後憲法学を不毛にしたという批判がなされたりします。ただ、現実はいつもレトリックよりも複雑です。東大憲法学といっても多様ですし、それを一括りにすることで学問のダイナミズム、ひいては面白みが失われてしまいます。本書は、多角的な視点から憲法学を描き出すことで、そのダイナミズムを存分に楽しめる内容になっています。本書を手にとって、憲法学に興味を持ってくれる人がまた一人増えることを願っています。(江藤祥平)



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