一橋教員の本

「てにはドイツ語」という問題 : 近代日本の医学とことば

「てにはドイツ語」という問題 : 近代日本の医学とことば

安田敏朗
三元社 2021年5月刊行
ISBN : 9784883035298

刊行時著者所属:
安田敏朗(言語社会研究科)

著者コメント

 「てにはドイツ語」ということばは耳慣れないかもしれません。これは近代日本の医学教育、とりわけ東京大学を軸としたエリート教育がドイツ人によりドイツ語でなされたことが起源となっています。ドイツ人が医学教育にかかわらなくなっても、日本人がドイツ語で日本人に医学教育をおこなっていきました。しかしそれではなにかと不便なので、ドイツ語の単語を日本語の語順でならべて助詞などでつないでいく特殊な言語変種が発生しました。一見便利なようですが、時代がくだり、ある種の言語ナショナリズムがたかまりをみせると、「てにはドイツ語」も問題化されていくことになります。「大東亜共栄圏」にひろめる「大東亜医学」が提唱されるにいたると、この傾向はさらにつよくなりますが、敗戦後、ドイツ医学が急速に影響力を失うと、「てにはドイツ語」は姿をひそめていき、いまでは医療従事者の隠語にひっそりと残っているような状況です。本書ではやや地味なテーマを掘り下げてみましたが、ことばの問題をつうじて学問のあり方を考える、あるいは医療におけることばの問題を考えるひとつのきっかけになれば、と思います。



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