一橋教員の本

マクロ経済学 新版

‎マクロ経済学 新版

齊藤誠, 岩本康志, 太田聰一, 柴田章久著
有斐閣  2016年4月刊行
ISBN : 9784641053847

刊行時著者所属:
 齊藤誠(経済学研究科)

著者コメント

 「大学4年間使うことができる」というコンセプトで編まれた本書に他の学部レベルの教科書と大きく異なる特徴があるとすると,第1に,国民経済計算に代表されるマクロ経済統計の解説に十分な紙幅を割きながら,マクロ経済統計の有用性とともに,その限界を詳しく論じている。マクロ経済統計に対して真摯な態度を保つことこそが,マクロ経済学を学んでいく上でもっとも重要なステップの一つである。
 第2に,IS-LMモデルやAS-ADモデルなどのケインズ経済学の中核的モデルを論じる場合においても(主として,第II部),ハイエクの経済学が重視した相対価格が果たす役割に焦点をあててきた。たとえば,開放経済モデルを解説している第9章では,これまでの学部生向け教科書が明示的に取り扱ってこなかった交易条件(輸出価格と輸入価格の間の相対価格)が果たす役割をクローズアップした。詳細は本文に委ねるが,マンデル・フレミング・モデル(IS-LMモデルの開放経済バージョン)に交易条件を明示的に取り入れることで,21世紀の日本経済が直面した国際環境をより正確に記述できることを示した。
 第3に,第IV部で展開した経済モデルを中心に,できる限りシンプルな理論的枠組みにおいて,ハイエクの経済学が重視した動学的な資源配分の側面を取り入れるようにしてきた。たとえば,第15章では,伝統的な政策手法に比べてきわめて積極的な金融政策(長期国債の積極的な買入,為替政策としての金融政策,ゼロ金利やマイナス金利に対する政策コミットメント)についても,簡単なマクロ経済モデルを用いながら,それらの政策の動学的側面について詳細な解説を試みてきた。
 また,第16章では,できる限り平易にラムゼー・モデルを解説しながら,長期的に見てどのような資源配分が望ましく,どのようなものが望ましくないのかを考察してきた。具体的な例としては,仮にマイナスの実質金利で物的資本が過剰に蓄積していく経路に陥ったマクロ経済は,資産価格バブルが生じ,結局はバブルの崩壊をもって長期的に維持可能でないような事態に至ってしまうことを示してきた。
 第4に,読者が,第1の点と,第2,第3の点を結びつけられるような工夫を凝らしてきた。すなわち,マクロ経済統計を用いたいくつもの実証事例(しかし,決して高度な計量経済学に依拠していない事例)を通じて,マクロ経済モデルにおける相対価格の役割や動学的な側面にかかわる重要なインプリケーションを,日本経済のマクロ経済統計によって実証的に吟味できることを示してきた。読者には,生きのよい日本経済の実証事例を通じてマクロ経済学の知識に実践的な意義のあることを実感してほしいと思っている。
 790頁と大部な教科書であるが,4年かけて読み上げることを通じてマクロ経済学の醍醐味を堪能してほしい。

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