一橋教員の本
阪神間モダニズムと具体のはざまで : 長谷眞次郎研究 調査経過報告画集
長谷海平編著 |
著者コメント
【幻の画家、幻の画集】
実際に存在していても、確認ができない対象を幻と言います。
その意味で本書で紹介する長谷眞次郎は、幻の画家と言えるでしょう。
眞次郎氏は昭和の初期から中期にかけて活躍した画家です。受賞歴も少なくありません。にもかかわらず彼の絵画や足跡を確かめるのは困難です。少なくとも本書が出版される2016年初春の段階で、彼が何者であったのかをインターネットでどれだけ調べても画家であることを明らかにできる程度です。
幻である理由の一つとして、彼が自身の創作物を手放さなかった事実が挙げられます。眞次郎氏はモチーフへの愛情を具体化したものとして、創作物に対して分ちがたい感情を抱いており人手に渡すことができませんでした。そのため作品の流通はほぼなく、これまで彼の活躍は展覧会などの入選資料などを通じてようやく明らかになる程度でした。
私は、画家として眞次郎氏の活躍を明らかにするため、遺族の協力を経て彼の作品の調査に取りかかりました。本書はその調査の過程で資料として蓄積した写真を、一覧できるように画集化したものです。
つまり本書は、幻の画家が残した幻の画をまとめた本、つまり幻の画集なのです。
幻を現(うつつ)へとつなぐ本書をお楽しみ頂ければ幸いです。