一橋教員の本

震災復興の政治経済学 : 津波被災と原発危機の分離と交錯

震災復興の政治経済学 : 津波被災と原発危機の分離と交錯

齊藤誠
日本評論社  2015年10月刊行
ISBN : 9784535558298

刊行時著者所属:
 齊藤誠(経済学研究科)

著者コメント

 本書では、私たちの社会が震災復興と原発危機にどのような対応をしてきたのかを振り返ることを通じて、直面する状況に対して適切にフレーミングすることの大切さを、その裏返しとして、不適切にフレーミングしたことによる不幸な帰結を論じてきた。
 震災復興政策において私たちは、「東日本」という言葉を「大震災」に冠することによって、東北地方の太平洋沿岸部に過度に集中していた被害を「東日本」全体にまで広がっているかのように仮想してしまった。その結果、津波被災に対するフレーミングはとてつもなく膨張し、震災復興政策が過大なものになった。
 原発危機対応において私たちは、原発事故の被害が原発施設の範囲をはるかに超えて、質的にも、量的にも広がりを見せていたにもかかわらず、原発施設の、それも、原子炉(圧力容器)に視線を無理矢理絞り込むことによって、原発事故の収束を繕おうとしてしまった。その結果、原発危機に対するフレーミングはきわめて矮小化され、原発危機対応が不徹底になった。
 本書の最後では、非常時の切迫した状況に対して、適切なフレーミングをし、すなわち、状況を等身大に捉えて、状況に真摯に向き合うにためにどうすればよいのかを自問している。私たちができることといえば、科学的に裏付けられた知識をもって、非常時のその時点で得られる資料や、危機的な状況が進行する中で得られるデータから客観的に状況を把握し、その状況に対して合理的な対応を考えていくことしかないのでないだろうか。また、その当座で分からないことについては、客観的な状況が判明するまで判断を留保する勇気を持たなければならない。



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