一橋教員の本
逸脱と啓示 : 中国現代作家研究
逸脱と啓示 : 中国現代作家研究坂井洋史著 |
著者コメント
本書は2005年9月に上梓した『懺悔と越境――中国現代文学史研究』の「続編」を書くという意識でまとめたものです。「中国現代作家研究」を副題に掲げてはいますが、世上所謂「作家論」とは、趣を異にしています。各章の基調は主としてテクスト分析であり、むしろ「作品論」とするのが適切かもしれません。とはいえ、扱っているテクストは大体において複数に及び、文学史的興味と呼ぶしかない関心で記述を一貫させた心算です。そもそも私は作家にせよテクストにせよ、それらを閲読の愉悦をもたらす個別の対象として眺めるだけでは気が済まない、複数を並べ、束ねて、そうした挙句に浮上して来る「景色」を鳥瞰し、出来ることならばそこに何らかの「意味」を見出したいと常々考えています。前著が、「文学史」という、複数の現象を並べ、束ねて成るストーリー、それを支えるプロットを如何に構えるかといった問題についての、原則の確認だったというなら、本書で行ったのは、それを設計図とした、細部の肉づけ作業ということになります。私は両者が相俟って、前述「景色」の印象に、より鮮明な輪郭を与えるだろうと考えています。