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多様な視点から社会を見つめ、グローバルな市民社会で活動できる人材を育成する「社会学部グローバル・リーダーズ・プログラム」

2019年10月25日 掲載

学生が主体的に活動し、
新しいアイディアや企画が実現できる
プログラムを目指してスタート

「グローバルな市民社会で活動できる人材」「幅広く多元的な視点から社会を見ることができる人材」。社会学部グローバル・リーダーズ・プログラム(GLP)は、このような人材を育成するために、2017年度からスタートした。学生が主体的に活動できるように、新しいアイディアや企画が実現できるプログラムを目指している。
大学1年次が修了した時点で12人程度の学生を選抜。GLP選抜者には、後述する「GLPセミナー I」「GLPセミナー II」「企画と実践」をはじめとするGLPコア科目、海外留学およびGLP指定科目群を通して、国際的な経験ができる環境が用意されている。プログラム初年度である2017年度に選抜された1期生は、留学を終えて帰国し、現在4年次の秋を迎えているタイミングだ。そして同プログラムが定める単位を修得すると、プログラム修了証が授与される。修了生は卒業後、地域社会に貢献する企業人、国際機関職員、研究者、ジャーナリストとしての活躍が期待されている。

今回HQでは、社会学部GLPを統括している大学院社会学研究科・赤嶺淳教授に取材。同プログラムの基本的なコンセプト(English plus One)や、「海外短期調査」などの具体的な取り組み、必須単位を絞り込んだ目的などについて語っていただいた。

あわせて、留学から帰国した4年生(1期生)と、これから留学先を選定する2年生(3期生)の生の声を通して、社会学部GLPを紹介していく。

英語圏以外の社会・ビジネスのあり方を見つめ、
多様性について考えを深める
「English plus One」という理念

社会学部GLPの基本理念は「English plus One」、つまり英語圏以外の地域への視座がベースとなっている。社会学部からは、もともと英語圏以外の地域への留学希望が多く、同プログラム創設時の研究科長が、フィリピンとアメリカの関係史を研究していたこともあり、「アジア研究」を特色として打ち出したのがきっかけだ。アジアの「現場」に赴き、さまざまな研究を通して英語圏以外の社会のあり方、ビジネスのあり方を見つめ、多様性について考えを深めること。そして、オルタナティブ※1を追求すること。これが社会学部GLPの特色と言える。
後述するが、「海外短期調査」という科目では教員が毎年5~6人の学生を引率して、アジア各国で調査(フィールドワーク)をおこなっている。「10年継続すれば50~60人の学生がアジアを体験することになる。それなりに大きな意味があると考えています」と、赤嶺教授は語る。

私は学生時代、ひとりで東南アジアを歩いていました。まだ、インターネットがない時代です。現地に着いて最初におこなうことは、安くて安全なホテルを確保することでした。当時と異なり、情報が容易に入手できる時代に大学がこういうプログラムを用意することが、学生にどのような効果をもたらすかは分かりませんが、現地を知らずに研究するより、知っていたほうが絶対に良い。そう確信しています」(赤嶺教授)

※1 オルタナティブ・・ 既存のものにかえて選び得るもの

「GLPセミナー I」「GLPセミナー II」「企画と実践」と
主体を学生にシフトさせながら進むカリキュラム

同プログラムの修了要件は以下のようになっている。

(1)GLPコア科目を含め、GLP指定科目36単位から取得すること
(2)4か月以上の海外留学をすること
(3)他の社会学部卒業要件を満たすこと

GLPコア科目とは、「GLPセミナー I」(2年次)・「GLPセミナー II」(4年生)・「企画と実践 I」(4年生)・「企画と実践 II」(4年生)の4科目・12単位で構成されている。
「GLPセミナー I」は2年次からおこなわれる。授業中はすべて英語、GLP選抜者12人のみを対象に、少人数でリーディングやディスカッションの練習を積む。つまり留学前のGLP履修生が参加する授業であり、留学後、帰国した学生を対象とする授業が「GLPセミナー II」だ。こちらは発展科目という位置付けで、参加する学生にはさらに高度なリーディングやディスカッションが要求される。また、通常の講義と違って主体性も不可欠な要素だ。
「企画と実践」では、その主体が完全にGLP選抜者にシフトする。一つのテーマについて日本関連の研究をおこなっている専門家を招待し、セミナーやシンポジウムの形式で講演をしてもらう、というプログラムだ。招待する専門家の選定。日時・場所の調整。広報。当日の設営・司会進行。講演後の懇親会や、Web用のレポート・動画作成。GLP選抜者がすべてゼロベースから立ち上げ、講演会を実現させるという、まさに「企画と実践」の場なのだ。

「教員のサポートも受けつつ、基本的には学生が主体となって進め、それが単位になるという授業は社会学部ならではの試みです。講義のように上から降りてくるものではない、画期的な取り組みだと考えています」(赤嶺教授)

アジアのプランテーション※1を訪問。
日本までのサプライチェーン※2を通じ、
環境問題と経済開発について考える「海外短期調査」

学生の主体性が問われるのは、コア科目だけではない。たとえばGLP指定科目の基礎科目の一つ、「海外短期調査」も同様である。
これはフィリピンやマレーシアのプランテーションを訪問し、農産物の日本までのサプライチェーンを通じ、環境問題と経済開発について考える科目だ。毎年夏に5~6人のGLP選抜者を現地に引率し、1週間かけてバナナやアブラヤシなどのプランテーションなどを視察。農村でのホームステイを経験しながら、関係者にヒアリングを実施。「開発」「搾取」「農薬」などの問題については、日本で研究していると、ともすれば批判的な意見のみを持ってしまいがちだ。しかし現場を実際に見ることによって、また違う発見があり、新たな視点が生まれる。そして、大切なのはここからだ。

「現地で見たことを、日本に戻って追究するのです。現地経験をもとに自分なりに掘り下げていくテーマを設定する。そしてサプライチェーンに関連する企業や団体、この分野の研究者に、自らアポイントを取って追加調査をおこなうのです。場合によってはもう一回、今度は自費で視察に行くことになるかもしれません。いわゆる『マルチサイテッド※3』のスタンスですね」(赤嶺教授)

日本とアジアをつなげて考え、主体的に動くことが求められる。そんな「海外短期調査」は同プログラムを象徴する科目と言えるだろう。

※1 プランテーション・・ サトウキビ・綿・タバコ・ゴム・コーヒー・茶など単一作物を栽培する大規模農園

※2 サプライチェーン・・ 製品の原材料が生産されてから消費者に届くまでの一連の工程

※3 マルチサイテッド・・ 複数の場からの多角的視点

「社会学部GLPの単位を取ることだけで
手一杯になったら、つまらない」

先に紹介した社会学部GLPの修了要件は、実はそれほど厳しいものではない。その理由を赤嶺教授は「社会学部GLPの単位を取ることだけで手一杯になったら、つまらないから」と語る。同プログラムを創設する際の議論で、必須の単位をできるだけ減らし、留学も「4か月以上」とし、短期間でもよいこととした。

「他の学部の授業、語学などもいろいろ履修してみて初めて『English plus One』が実現できると思います。社会学部GLPの中だけではなく他学部の授業、一橋大学や日本の中だけではなく海外と、なるべく『金太郎飴』の状態から脱することで、多様性が学べるのですから」(赤嶺教授)

行った

今回取材をおこなった1期生の佐藤冬佳さん(オーストラリア国立大学・アジア太平洋学部留学)も、修了要件の負担の少なさが却って励みになったそうだ。

「一橋大学で開講される授業の中で必須の単位数は、基礎科目が4、標準科目が8、発展科目が16。さらに進級要件が加わります。それでも発展科目などは、仮に全部残っても4年の春学期以降で取れてしまう範囲です。『その他学部科目』は留学先でも単位が取れます。その分、自分が関心のある科目を学ぶ余裕が生まれ、視野を広げるチャンスがつかめたので、本当に助かりました」(社会学部4年・佐藤冬佳さん)

※具体的な単位数は年度によって異なる。

留学経験者と後輩の交流サポートや、
交換留学生とのインターアクションの波及を通して
社会学部GLPはもっと面白くなる

最後に、今後の社会学部GLPの取り組みについて、赤嶺教授に抱負を語っていただいた。

「English plus One、多様性、マルチサイテッド、絞り込まれた単位数。こういった基本的な方針は今後も堅持していくことになるでしょう。1期生が留学から帰ってきて感じたのは、1期生と後輩たちとの交流をサポートしていかなければ、ということです。現状はインフォーマルな形での接点にとどまっていますから。また、我々が送り出すGLP選抜者だけではなく、交換留学で本学が受け入れる留学生たちとの交流も深めていきたいと考えています。基本的に交換留学生には『日本を知りたい』という思いがあります。その思いに対して、社会学部が応えられる部分は少なくありません。私個人としては、HGPなどの授業であえて捕鯨問題をあつかい、留学生たちからのリアクションを得るようにしています。準備は大変ですし、緊張感もあります。が、このインターアクションを社会学部GLPにも何らかの形で波及させられれば、さらに面白いプログラムになる。そんな手応えを感じています」(赤嶺教授)

※HGP=Hitotsubashi University Global Education Program

仲間と出会い、留学先で多様性にふれながら
4年間という限られた時間を最大化していきました

写真:佐藤 冬佳

社会学部4年 佐藤冬佳さん
(オーストラリア/オーストラリア国立大学留学)

私はせっかく上京して一橋大学に入ったのだから、面白いことをしたい、面白い人と出会いたいと考えていました。なんとなく4年間を過ごすのは嫌だったのです。そこで教室に置いてあったGLPのチラシを見て、説明会に参加。留学が必須で、面白いことに出会うチャンスがあるプログラムだと分かり、応募しました。
実際、GLPに選抜されたほかの学生は、アグレッシブで、挑戦心にあふれる人ばかり。「こういう勉強をしたい」「こういうことをやりたいから留学したい」......そんな思いを率直に語る人たちと、週に1回会って議論する貴重な機会を得られました。私はこういうコミュニティが欲しかったのだと感じました。

留学先としてオーストラリア国立大学を選んだ理由は2つあります。多様性を体験できる環境で暮らしたかったことと、大学生活を4年間で終えたかったということです。
まず1つ目の多様性ですが、現地ではたくさんの刺激を受けました。現地では価値観の多様性が重視されており、たとえばヴィーガン(絶対菜食主義者)向けのメニューが普通にあるなど、日本では考えられないこともありました。一方でこうした価値観の違いが、ことさらクローズアップされることはありません。
また環境問題についてはとても意識が高い人が多く、若い人でもペットボトルを何回も使いまわしていました。プラスチックが含まれる製品は使わない、という人もいます。それでも「なぜ!?」とは言われません。環境問題を「自分ごと」として考える価値観。そして、価値観が違っても受け入れ合う風土。本当の多様性というものを目の当たりにした一年でした。

2つ目の理由、「4年間で大学生活を終えること」にこだわったのは、4年間という限られた時間を最大化して学び、社会で活かしたいからです。ただし1年間はアウェイの環境で生活したいという思いはありました。そこで先生方にも相談に乗ってもらい、二年次の春休み+4月~11月で留学ができる南半球のオーストラリアを選んだのです。

もしGLPの存在に気づかずに、あのままなんとなく4年間を過ごしていたら、仲間にも、機会にも恵まれませんでした。GLPに参加できて本当に良かったと感じています。(談)

1年間英語しか話せない環境に身を置いて
その地域の人たちとの「違い」を学びたいです。

写真:稲葉 りお

社会学部2年 稲葉りおさん

私が社会学部に入学したのは、高校のときに社会学を広く学びたいと考えたからです。入学後、さまざまな科目を学ぶ中で、特に心理学や民俗学が面白いと感じるようになりました。ものの見方や考え方が、なぜ国によって違うのか。歴史の違いか、それとも文化の違いか......そういうことを考えるのが好きなんですね。でも、特にGLPに参加するつもりはありませんでした。

気持ちが変わったのは、1年生の夏、短期海外研修で4週間ほど香港に行ったときです。香港中文大学の学生と接して、皆さん4か国語(広東語・中国語・英語・日本語)が話せることにショックを受けました。帰国子女でもなく、日本の実家でずっと暮らしてきた私は、英語すら怪しく、スタートラインに立てていない。悔しかったですね。国際化がすべてに優先するとは思いませんが、国際的に通じるスキルを持つことは重要だと痛感しました。
また、4週間という期間は短く、どうしても「お客さま」になってしまいます。1年なら1年、その国の生活者として暮らしていかないと見えてこないものがある、とも感じたんです。そこで、さまざまな経験ができるGLPに参加しようと決めました。

2年生なので、留学先の候補を選び、応募するのはまだこれから。今は留学を想定したプログラムで学んでいる真っ最中です。たとえば「ライティングセミナー」という授業では、留学先でリサーチペーパーを英語で書くときを想定しています。日本語と英語では論文の論理展開に違いがあるとのこと。まずその違いを知り、英語の巧拙を問わずロジックを身につけることが主題です。GLP1期生の先輩が留学する前にはなかった授業で、「こういう機会があるのは羨ましい」と言われてました。体験に裏打ちされた言葉なので、さらに授業に身が入る思いです。

留学先をどこにして、何を学ぶか。そしてその先の将来的なビジョンは何か。まだ自分の中では模索しているところです。でも心理学などは世界のどこでも学べるはず。まずは1年間、英語を話さざるを得ない環境に自分を置きたいと思います。そして、その地域の人たちと私は何が違うのか。その人たちは日本をどう見ているのかを、学んでいくつもりです。(談)