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配分率130.0%という高い評価を得た「法科大学院公的支援見直し加算プログラム」

2015年夏号vol.47 掲載

一橋大学法科大学院は、2015年1月、文部科学省による「法科大学院公的支援見直し加算プログラム」において、審査申請があった42校の法科大学院中第2位となる配分率130.0%という高い評価を受けました。この「法科大学院公的支援見直し加算プログラム」とは、司法試験合格率が低迷している法科大学院の抜本的な組織見直しを加速するため、同省が2013年11月に公表した「公的支援の見直しの更なる強化策」に基づき、各法科大学院の取組みを評価し、補助金の配分に差をつけることを目的として行われたものです。2014年5月に各法科大学院へ報告書の提出が依頼されて10月以降に審査が行われ、このほど審査結果が取りまとめられました。

法科大学院に対する「公的支援の見直し」

国民に適切な法的サービスを提供し、社会の隅々にまで「法の支配」を及ぼすために、法曹人口の拡充などを目指して2001年に取組みが始まった司法制度改革。2004年の法科大学院(ロースクール)制度の創設は、その目玉となる施策の一つでした。法科大学院の修了生に新司法試験(現・司法試験)の受験資格が与えられ、2010年頃に年間3000人程度の合格者を輩出することを目標に、70〜80%の合格率を目指した制度設計が行われました。当初は20〜30校の開設が想定されていましたが、実際は74校が設立されました。新司法試験の合格率(対受験者合格率)は、初年度の2006年は48.2%となり、以降漸減傾向が続き、2014年は22.6%と低迷しています。こうしたことから、法科大学院制度に対する見直しの声が高まり、文部科学省は改善策の一環として「公的支援の見直しの更なる強化策」を打ち出しました。
その骨子は、次のとおりです。

  • 司法試験合格状況、入学定員充足状況に加え、多様な人材確保の状況、地域配置や夜間開講の状況といった多様な指標に基づき、現在の入学定員充足状況の傾向を勘案し減額された基礎額を設定
  • そのうえで、先導的な教育システムの構築や教育プログラムの開発、質の高い教育提供を目指した連携・連合など優れた取組みの提案を評価して加算

基礎額の設定は、司法試験の累計合格率、法学未修者※1の司法試験合格率、入学定員の充足率、法学系以外の課程出身者もしくは社会人の入学者数・割合、地域配置もしくは夜間開講の5項目が点数化され、合計点数によって全国の法科大学院を五つに分類して行われました。たとえば、司法試験合格率は、累計合格率が全国平均以上の場合は12点ですが、「合格率が全国平均の半分未満」が3年連続した場合、0点となります。
五つの分類のうち一番上の第1類型であっても、基礎額は90%に減額となります(第2類型は60〜80%に、第3類型は2015年度50%、2016年度以降0%に減額されます)。そのうえで、加算対象となる取組みを審査して、各取組みごとに5〜20%を加算する、というものです。つまり、従来、公的支援は各法科大学院の必要教員数等に応じて配分されていましたが、前述のとおり実績や取組み内容と質によって傾斜的に配分することを通じて、各法科大学院の質の向上を促すというものです。
各法科大学院が提出した取組みは、「基礎教育・基盤の充実に係る取組み」、「先端的・特色ある教育の充実に係る取組み」、「グローバル法曹の充実に係る取組み」、「地域における法曹の充実に係る取組み」の四つに分類されて、審査が行われました。

  • 1:法学部などで法律を学んだことのない人を「未修者」といい、学んだことのある人を「既修者」という。

一橋大学法科大学院の加算プログラムの提案内容

法科大学院公的支援見直し加算プログラム審査結果を踏まえた配分率一覧

法科大学院公的支援見直し加算プログラム審査結果を踏まえた配分率一覧表の表

出所:文部科学省HP「法科大学院公的支援見直し加算プログラムの審査結果について」(2015年1月16日)

法科大学院別司法試験累計合格者数等(累計合格率順)(上位10位抜粋)

法科大学院別司法試験累計合格者数等(累計合格率順)(上位10位抜粋)の表

出所:中央教育審議会大学分科会 法科大学院特別委員会「資料3-8」(第65回、2014年9月19日)

一橋大学法科大学院は、2006年の第1回の新司法試験において、事実上のトップ※2となる83.0%(全国平均48.2%)という高いレベルの合格率でスタート。以降、今日まで一貫して高いレベルを維持し、2005年度(2006年3月修了)から2013年度までの修了者の累計合格率は79・5%と全法科大学院の中で第1位となっています。これにより、一橋大学法科大学院は、今回の公的支援見直しの基礎額の設定で第1類型に認められました。
一橋大学では、法科大学院を開設するにあたり、法科大学院制度の本来の主眼である「質の高い法曹」の育成に力点を置いた教育方針を掲げました。1クラス40人×2クラスという少数精鋭の学生に対し、本学教員が密度の濃い授業を行うとともに、第一線で活躍するOB・OGを含む実務家などを講師に招き、一橋大学の最大級の強みといえる「ゼミ教育」などを通じて質の高い教育に取り組んできたことが、こうした高い成果に結実しているといえます。
では、一橋大学法科大学院の加算プログラムの提案内容及び審査結果はどのようなものであったのか、ご紹介します。
本学法科大学院が提出した取組みは5項目で、そのうち「未修者教育を充実・発展させる為の取組み」が「卓越した優れた取組み」、「公法系及び刑事系の各訴訟実務における即戦力人材養成の取組み」が「特に優れた取組み」と評価されました。また、「共生社会を可能にするための、障がいを有する法科大学院生に対する教育支援モデルの構築と提示の取組み」及び「法科大学院進学促進プログラム─学部学生並びに多様な知識・経験を有する幅広い人材の法科大学院への進学を促すために─」が「優れた取組み」と評価されました。「『理論と実務の架橋』を担う法学研究者・教員養成の取組み」は、「一般的な取組み」と評価されました。
「これらの取組みは、いずれも従来行ってきたものです。これを見直し、補強する形で提案にまとめました。それがこのように高く評価されたということは、これまでの本学の取組みが間違ってはいなかったことを立証するものであると受け止めています」と法科大学院長の滝沢昌彦教授は言います。

  • 2:1位は島根大学の1人のみ受験・合格の100%。予備試験合格率は順位に含まず。

マーキュリータワー法廷教室内写真1

マーキュリータワー法廷教室内写真2

マーキュリータワーの「法廷教室」。
実際の法廷同様につくられており、ここで学生が裁判官、検事、弁護士などの役割を務めながら模擬裁判を行う。そのほかタワーには教室、資料室、多目的ホールなど多彩な機能が集約され、法科大学院の授業はすべてこのタワー内で行われる

「卓越した優れた取組み」と評価された未修者教育

六法全書イメージ写真

まず、「卓越した優れた取組み」と評価された「未修者教育を充実・発展させる為の取組み」について。一橋大学法科大学院は、法学部などで法律を学んだ人を対象とする2年制の「既修者コース」と、法律を学んでいない人を対象とした3年制の「未修者コース」を設けています(入学者選抜では、どちらのコースへ出願するかは志願者の選択によります。たとえば、理科系の学部の出身者でも既修者コースへ出願することができます。逆に、法学部出身者が未修者コースへ出願することもできます)。未修者は1年間、憲法、民法、刑法など基本的な法律を学び、1年次の修了時には既修者と同等レベルの知識を身につけておく必要があります。とはいえ、実際は1年間で既修者レベルに追いつくことは容易ではありません。実際に、2007年から2014年までの8年間の司法試験累計合格率は、全国の法科大学院の平均で、既修者の32.8%に対し、未修者は17.9%にとどまっています。この点、一橋大学法科大学院の未修者は、41.9%とトップの合格率となっています(既修者は62.8%で第2位)。
「一橋大学が伝統的に未修者教育に強かった最大の要因は、1年次から2年次に進級する際のテストの存在が挙げられます」と滝沢院長。未修1年生にとっては、この進級テストは所定の点数を取れなければ2年に進級できないというハードルであり、これがあるがゆえに試験前に1年間の学びを総ざらいして復習するという絶好の機会を提供していたのです。ところが、2014年の司法試験で、一橋大学の未修者の合格率は25.0%(全法科大学院の未修者の合格率は12.1%)と大幅に悪化しました。その原因も、進級テストにあったと考えられます。
滝沢院長は、「実は、全学にGPA※3制度が導入されたことで、この進級テストは"似たようなもの"として取り止めになったのです。しかし、取り止めて分かりましたが、網羅的なGPAはこの進級テストを代替するものではありませんでした。学生の指導を行っている実務家のOB・OGなどからも『進級テストは継続するべき』という意見が出ました。そこで、今回の加算プログラム以前に、復活させることを決めていたのです」と説明します。
加算プログラムでは、この進級テストを復活させる取組みを提案し、最高の評価を得ました。その背景には、こうした手間のかかる取組みは他の法科大学院ではほとんど行われていないことがあります。「学年末テストに加えて、ですから、大学側の手間や学生の負担は相当なものです。しかし、それを押して実施して高い実績に結実したことが立証されたわけですから、最高レベルの評価が得られたと理解しています」と滝沢院長は言います。
さらに、国も「共通到達度確認試験システム」の構築を検討しており、その方向性と合致したことも高い評価を得た理由と考えられます。

  • 3:Grade Point Average=各科目の成績から特定の方式によって算出された学生の成績評価値。

「特に優れた取組み」及び「優れた取組み」

次に、「特に優れた取組み」と評価された「公法系及び刑事系の各訴訟実務における即戦力人材養成の取組み」について。一橋大学法科大学院は、東京商科大学以来の伝統を継承し、ビジネスローヤー育成に強みを発揮していますが、それと同等に公法・刑事系の教育にも力を入れています。そうした中で、公法・刑事系の即戦力養成を目標に、憲法訴訟を扱える能力を持った法曹や、刑事系の上訴審弁護を担える実務家の育成に着手しています。具体的には、実務家の協力を得て実際に進行中の刑事事件という生きた題材を仮想的に受任して実践力を養う、という取組みが評価されました。
さらに、「優れた取組み」と評価された「共生社会を可能にするための、障がいを有する法科大学院生に対する教育支援モデルの構築と提示の取組み」について。2013年度に聴覚障がいを有する学生が入学しましたが、大学の支援組織の協力のもと、同じ授業を履修する学生などからパソコンテイカーのボランティアを募って受講を支援しました。パソコンテイクとは、講義で話されていることを同時通訳的にパソコン画面に打ち出し、障がい者に視認させるというものです。加算プログラムでは、この取組みを通じて蓄積したノウハウを広く共有財産として公開する提案を行い、高く評価されました。
「この取組みは、法曹界のダイバーシティ(多様性)の推進に貢献するものと自負しています」と滝沢院長。
同じく「優れた取組み」と評価された「法科大学院進学促進プログラム─学部学生並びに多様な知識・経験を有する幅広い人材の法科大学院への進学を促すために─」について。そもそもの法科大学院制度の趣旨の一つとして、先に言及したとおり、法学部以外で学んだ学生や社会人など多様なバックグラウンドを有する人材を受け入れ、幅広い法曹を輩出することがあります。しかしながら、実際はなかなか広がらないどころか、法学部生であっても法科大学院に進学し法曹を目指すという人が減少している現実があります。そこで、一橋大学法科大学院では、実務家のOB・OGに法曹の仕事の魅力を語ってもらう機会を用意しています。これにより、学生に職業としての法曹を再認識させるという取組みです。さらに、「飛び入学制度」を、未修者だけでなく既修者コースにも拡充する取組みを提案しました。
このほか、「『理論と実務の架橋』を担う法学研究者・教員養成の取組み」も提案しました。法科大学院においても教員が不足するという問題が表面化しており、その対策として学生の研究活動支援のために紀要を出版するなどの取組みを提案しましたが、「一般的な取組み」との評価にとどまりました。
「今後、一橋大学法科大学院は約束した提案を着実に実行し、さらに高い成果を目指して取り組んでいきます」と滝沢院長は結びました。

(2015年7月 掲載)