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進化する一橋大学附属図書館。学生との連携を活かしたプロジェクトが進行中

2015年秋号vol.48 掲載

山部俊文

一橋大学附属図書館長
山部俊文

鈴木宏子学術情報課長

図書館の利活用を推進する
鈴木宏子学術情報課長

堀越香織図書情報係長

利活用の推進活動について語る
堀越香織図書情報係長

"待つ"から"働き掛ける"への進化

近年、世の中では図書館に足を運ぶ学生が減る傾向が続いています。本を読まない学生が増え、書籍の電子化も進む中で、1日の読書時間がゼロの大学生が4割を占めるという調査結果もあるそうです(「第50回学生生活実態調査」、調査対象:全国の国公立及び私立大学の学部学生)。
では、一橋大学はどうかと言うと、必ずしも深刻な状況にはありません。たとえば貸出冊数は学生1人あたり年間平均22冊と高い水準にあります。とは言え、時代の背景から図書館としてのスタンスを、"学生を待つ"から"学生に働き掛ける"へ変えていく必要があるのではないか。そう考えて2年前にスタートさせたのが、図書館の利活用推進プロジェクトです。

ジュンク堂書店吉祥寺店でのブックハンティングの様子1

ジュンク堂書店吉祥寺店でのブックハンティングの様子2

2015年6月17日、ジュンク堂書店吉祥寺店でのブックハンティング

"学生との連携"による図書館づくりを推進

蔵書数が200万冊に迫りつつある一橋大学附属図書館(以下、附属図書館)ですが、研究色が強い図書が大半を占めています。守っていくべき類まれな価値である一方で、多様な学生、特に学部学生に十分に配慮しているかどうかは検討の余地がありました。そこで、"学生との連携"に取り組みのポイントを置き、図書館づくりに参加してもらうことで利活用を推進しようと考えました。
具体的には、学生の目線で図書を選んでもらう『ブックハンティング』や、本の魅力をアピールし合う場として設けた『ビブリオバトル』、著者を招いて作品について語ってもらう『ブックトーク』といったイベントの開催です。学生の反応は上々です。そして、もっと組織的に利活用を推進していこうと考え、今年4月に立ち上げたのが図書館利活用実行委員会です。それまでは担当の職員が企画運営を行ってきましたが、連携しやすい横断型の組織に改めました。メンバーは現在8人。年度の初めに実施計画を立て、イベントの前後にプログラムの検討や振り返りの機会を持つなどPDCA(Plan DoCheck Actionの略)を実践しています。

2015年5月13日、ビブリオバトル一橋予選の様子

ビブリオバトルの様子

2015年5月13日、ビブリオバトル一橋予選の様子

第3回ブックトークの様子

2015年6月26日、第3回ブックトークの様子

斎藤修名誉教授による講演

2014年11月11日、ブックトークでの斎藤修名誉教授による講演

"居場所"としての魅力に溢れた附属図書館

1人でも多くの学生が気軽に立ち寄れる図書館にしていきたい。それが職員全員の思いです。
附属図書館は本学の学生たちの"居場所"となれる魅力も兼ね備えているはずです。附属図書館は、商法講習所開設以来の140年という歴史を貴重な文化財やコレクションから遡れる博物館でもあり、最新の研究成果に触れることのできる閲覧スペースでもあります。
ありとあらゆるお宝に触れられるワクワク感を味わってもらうには、どんな取り組みが有効なのか。他大学でも読書の推進活動が行われている中で、一橋モデルと言われるような成功事例を構築することも一つの目標です。実現するには、新しいアイデアや発見が欠かせません。そのためにも学生との接点をさらに増やしていきたいですし、図書館利活用実行委員会がその役割を担うこととなります。

図書館の利活用を推進する一橋大学のプロジェクト

図書選びに参加できる『ブックハンティング』

ブックハンティングの様子1

ブックハンティングの様子2

ブックハンティングの様子3

正式名は「髙本善四郎図書助成金学生選書ツアー」。実業家であった故・髙本善四郎氏(旧東京商科大学専門部1934年卒)によって寄附された図書助成金を活用して実施されている利活用推進イベントだ。今年度の第1回は2015年6月17日に行われ、場所はジュンク堂書店(吉祥寺店)が選ばれた。集まった5人の学生は買い物カゴ、カート、そして"買いたい度ランク"を付けるスリップを受け取り、75分間の選書タイムがスタート。1人20冊まで(うち5万円まで購入可能)というルールの中で、"読書を通じて自己成長できそう" "学問の喜びを深められそう" "周りの学生にも薦めたい"といった観点から次々と本が選ばれていく。「専攻分野以外の本を選ぶことは少ないので、有意義な時間でした」。終了後の懇談会で聞いた学生の好評価が印象的だった。

書評力を競い合う『ビブリオバトル』

ビブリオバトルの様子

ビブリオバトルとは、バトラー(発表参加者)が読んで面白いと思った本を持ち寄って紹介し、観覧者が"チャンプ本(一番読みたくなった本)"を投票で決める書評合戦だ。大学図書館や書店などで盛んに行われ、全国大会まであることをご存じだろうか。一橋大学では2013年に第1回を開催。今年度の第3回は初めて、関東地区代表決定戦への出場資格が得られる"一橋予選"として開催した。このビブリオバトルは、『ブックハンティング』とも連動している。ブックハンティングに参加した学生に本の紹介を依頼し、書評合戦にも参加してもらうのだ。大きな枠組みの中で図書館の利活用を推進しながら、学生がプレゼン力を高められるという教育効果も生んでいる。生協(一橋大学消費生活協同組合)と共同で開催し、多くの学生の目に留まりやすい場所をバトルの場に設定したところにも、主催する附属図書館の強い意気込みが表れている。

著者が自ら解説する『ブックトーク』

ブックトークの様子

本を紹介するイベントとして始まったブックトーク。その特徴は、取り上げる本の著者が講師として招かれ、テーマなどについて大いに語るところにある。より深い理解や新たな発見はもちろん、著者とコミュニケーションがとれる貴重な機会まで得られる点が一橋大学流と言えるだろう。第2回となった昨年11月開催のブックトーク2014「環境史へのいざない」は、図書のリユース活動に取り組む学生団体「チーム・えんのした」と共同で企画。平成26年度の文化功労者にも選ばれた斎藤修名誉教授が、著書『環境の経済史─森林・市場・国家─』(岩波現代全書)について語った。50人を超える参加者で会場は埋まり、「初心者の私でも楽しめました」といった感想が寄せられた。今年の6月26日に行われた第3回ブックトーク「『ココア共和国』ができるまで」(日本貿易振興機構〈ジェトロ〉アジア経済研究所図書館と共催)でも、「著作の内容だけでなく研究の進め方が聞けてとても参考になった」との声が寄せられており、回を重ねるごとに注目度が高まっている。

(2015年10月 掲載)