キャンパスの国際流動性、人材の多様性向上に大きく寄与する二つの改革がスタートします
2016年夏号vol.51 掲載
一橋大学は、グローバル化の進む世界の中で、「最先端の研究を推進しつつ、一人ひとりの学生を大切に育成する大学」という特色をさらに強め、世界最高水準の先端的研究・教育拠点として、さらなる発展を目指しています。
この目的のもと、2017年度には学生の国際流動性を高めるために学期改革を、2018年度には多様な才能を確保するために推薦入試の拡充を実施します。
2017年度より「4学期制」の導入が決定
国際流動性の向上を目指します
一橋大学は、2017年度から学士課程プログラムを改革し、「4学期制」を導入することを決定した。
現行の学期制は、図Aのとおり、4月から7月末までの夏学期と9月末から2月初頭までの冬学期の2学期で構成されている。2017年4月からは、大ざっぱにいえば夏学期と冬学期がそれぞれ二つに分かれ、4学期になるイメージだ。
図A:2016年度学年歴(学部)と4学期制のイメージ
ただし、学期の開始時期や終了時期は若干変更される。4月から始まる「夏1学期」(仮称、以下同)とそれに続く「夏2学期」はほぼ今までどおりだが、冬学期(あるいは秋学期)は現行よりもやや早い9月20日前後から始まり、11月の初頭までが「冬1学期」、その後1月の初頭までが「冬2学期」となる。終了時期も現行より早まる。法科大学院の授業は年内にすべて終了し、学部や他の大学院については、年末に少し余裕を設け、年明け早々に若干の授業とテストが行われることになる。
「冬2学期」が終了した後には、集中講義学期が置かれる。ここでは、短期間で集中的に学習するほうが学生の教育効果が高まると考えられる講義を、一橋大学の教員が担当することが想定されている。
また、この学期改革に伴って、授業時間も変更となる。現行の2単位は「90分授業×15回(1350分)+テスト」によって取得できるが、4学期制では「105分授業×13回(1365分)+テスト」になる。4学期に加えて集中講義学期を置きつつも、夏季休業期間を大きく短縮しないようにという配慮をしたうえで、大学設置基準で求められる学習時間を満たすための措置だ。
今回の学期改革について、沼上幹理事・副学長(教育・学生担当)は次のように語る。
「この学期改革の最大の狙いは、学生の"国際流動性"を高めることです。現行の学期制では、海外の大学との学年暦が大きく異なり、多様な留学に対する制約がありました。しかし、4学期制を導入することで、学生がこれまでよりも多様な留学機会を利用しやすくなりますし、また海外の留学生も一橋大学に来やすくなると思います」
実際に、海外の大学の学期制を見てみるとよく分かる(図B)。
図B:諸外国主要大学のアカデミックカレンダー(2014年)
たとえば、アメリカのスタンフォード大学では、6月第4週から8月第3週までにサマープログラムが開講されている。サマープログラムとは、夏季休業中に世界中の大学で開講される短期集中型のプログラムだ。この時期のサマープログラムに参加できれば、さまざまな国からやってくる学生と一緒に学ぶことができる。しかし、現行の学期制において一橋大生が参加したいと思った場合、夏学期の後半と重なってしまうため、事実上参加することは不可能だ。夏季休業期間の8月から参加しようとしても、その時期には通常開講されているサマープログラムがほぼなくなってしまう。
「そのため、日本人の学生向けに用意された特別なプログラムに参加することになります。しかし、新たな4学期制ならば、『夏2学期』をこのサマープログラムに丸々充てることもできるわけです。たとえば、2年次の『夏2学期』には必修科目の授業は行わないなどの工夫をすることで、より多くの学生を海外に送り出すことができるようになるでしょうし、その後に続く夏季休業期間も合わせて考えれば、夏季に海外留学に出られる可能性がぐっと広がります」(沼上理事・副学長)
冬季も同様だ。学期の区切りが揃うため、1月の中下旬以降に始まる学期から留学することも視野に入れやすくなる。また、オセアニア地域の大学がこの期間に開講する"サマー"プログラムに参加することも可能だ。
以上のように、これまでよりも格段に海外留学しやすくなるという点が、この学期改革の大きなメリットだ。1年次での海外短期語学留学、2年次でのサマープログラム、3〜4年次での長期留学というように、段階を追った海外留学のプランを立てることも可能だ。「グローバル人材の育成」を主要なテーマに掲げる一橋大学にふさわしい学期改革のコンセプトといえるだろう。
一方で、学生を海外の交流協定校に送り出すには、その分、相手先からも学生を受け入れる体制を整える必要がある。一橋大学ではすでに、英語による授業科目の提供や、充実した日本語教育、国際学生寮の拡充といったさまざまな取り組みを行ってきたが、4学期制の導入も一つの施策といえるだろう。
国際流動性の向上という点に加えて、この学期改革のもう一つのポイントとなるのが、「集中講義」期間の大幅な増強である。図Aのとおり、従来は8月上旬及び2月上旬のそれぞれ1週間ずつ、集中講義が行われてきた。2017年度からは、それらの期間に加えて、1月から2月にかけて1日2コマ×5〜7日というボリュームの集中講義が開講されることになる。
「短期間に集中的に取り組んだほうが身につくというものもあるので、この集中講義を上手く活用してほしいと考えています。留学の選択肢を拡げたいというのが学期改革の主眼ですが、国内でじっくり勉強したい学生にとっても、学修の多様性や機会を豊かにする施策にしていきたいですね」(沼上理事・副学長)
一方、この学期改革にはまだ検討課題も残る。もっとも懸念されるのが、105分に増える授業時間だ。
「大教室で行う講義形式の授業では、教員、学生ともに負担が増すだろうという懸念は当然あります。そうしたスタイルの授業においては、慣れるまでに時間が必要かもしれませんし、授業の進め方を変えるなど、工夫が求められるでしょう。
一方で、元々ゼミをはじめ、教員と学生、学生同士の議論が主体の授業が多い一橋大学の場合、90分では時間が足りないというタイプの授業もあります。大学院の授業でもその傾向が強いでしょう。そういった場合には105分の授業は逆に有効かもしれません」(沼上理事・副学長)
また、授業時間が105分に増えることで、1日の時間割にも影響が及ぶ。仮に始業時間、昼休みの時間を従来どおりとすると、終業時間は1時間15分遅くなる。この調整については、目下検討を重ねているところだ。
「こうした課題はまだ残されていますが、あらゆる物事には必ずプラスとマイナスの二面があり、トレードオフがあります。デメリットがあることも理解しつつ、しかし同時に得られるメリットも考える必要があります。その時々に直面している環境や追求している目標に応じて、そのバランスをどのようにとるかがカギだと思います」と沼上理事・副学長は結んだ。
2018年度より推薦入試の全学部での実施が決定
多様な才能確保のための施策が始動した
一橋大学は、2018年度の入学者選抜(入学試験)を変更し、従来は商学部だけで実施していた推薦入試を、全学部で実施することにした。その狙いは、グローバル社会において独自性を持って活躍できる人材の育成を促進するため、一定の基礎学力を備えつつ特定領域で高度な知的訓練を積み重ね、その才能を発揮してきた多様な背景を持つ学生に対し、多面的総合的に評価することだ。
学部 | 入学定員 | 推薦入試 |
---|---|---|
商学部 | 275人 | 15人 |
経済学部 | 275人 | 15人 |
法学部 | 170人 | 10人 |
社会学部 | 235人 | 10人 |
推薦入試の導入とともに、法学部及び社会学部における後期日程試験は廃止される(後期日程試験を実施するのは経済学部のみ)。
今回の推薦入試の全学部導入において、外国語や数学、コンピュータという分野における飛び抜けた能力を評価し、それ以外は大学入試センター試験における一定の成績と、文章を書く力、及び人とコミュニケーションする力の確認・評価により入学を認める枠を設けることで応えるものだ。
「一橋大学の従来の二次試験では、難関校にふさわしい問題が出題されています。優れた問題ではありますが、その受験準備には相当のエネルギーを要します。しかし、英検1級を取得することや数学オリンピックで好成績を収めることにも大変なエネルギーが必要です。その意味では、高校時代に投入するべきエネルギーを多様な方向に向けられるようにすることが、大学入試を設計するうえで非常に重要なポイントになります」と、入試制度変更を取りまとめる沼上理事・副学長は説明する。
推薦入試は、前述のとおり以前から商学部において実施され、一定の効果を挙げてきた。
「入学後も成績優秀で、留学したり、多様な言語に挑戦したり、スポーツに打ち込んだり、優れたリーダーシップを発揮するなど、本当に素晴らしい学生が入学してきていると思います。最近では推薦入試の受験者数も増えていて、この推薦入試を目指して準備する高校生が増え始めているという実感がありますね」と沼上理事・副学長は手応えを口にした。
推薦入試の概要
出願資格 |
(a)2018年度大学入試センター試験のうち本学部が一般入試前期日程試験に関して指定する教科・科目のすべてを受験した者で、(b)次に掲げる項目に該当し、(c)高等学校長又は中等教育学校長が責任を持って推薦できる者
|
---|---|
出願要件 | 次の(A)〜(G)のいずれか一つ以上に該当する者
|
推薦入試の内容は、2016年2月時点のものであり、今後変更されることがあります。大学入試センター試験の受験教科・科目及び最新の内容については一橋大学ウェブサイトをご参照ください。
(2016年7月 掲載)