「留学生招待鎌倉ツアー」を通して伝えたい如水会ネットワークの大切さ
2015年夏号vol.47 掲載
日本の文化や歴史に対する理解を深めてもらい、母校の国際競争力強化に貢献する
一橋大学のOB・OG組織である如水会。その鎌倉支部(支部長は仙頭靖夫氏。会員約250人)では、年に1回、留学種別を問わずすべての外国人留学生を対象とした「留学生招待鎌倉ツアー」を行っている。留学生に「日本」を体験してもらい、日本の文化や歴史への理解を深めてもらうことで、ひいては母校のネットワーク強化に貢献することが目的だ。
第4回を迎える鎌倉ツアーは、2015年2月22日(日)に開催された。参加者は、大学側から留学生6人/韓国(3人)、香港(2人)、台湾(1人)に、国際教育センターの教員と、学務部国際課国際企画係のスタッフが加わって2人、如水会鎌倉支部会員が7人、総勢15人でのツアーとなった。朝10時過ぎに北鎌倉駅に降り立った留学生たちは、鎌倉支部会員の出迎えを受け、まずは、本企画の目玉である東慶寺でのお茶会に参加。その後、鶴岡八幡宮〜昼食〜小町通り散策〜江ノ電鎌倉駅〜江ノ電長谷駅〜高徳院(鎌倉大仏)〜長谷寺(長谷観音)というルートをたどりながら、日本の文化や歴史に触れていった。
なお、開催日が中国の春節(2月18日〜24日)と重なり、中国人留学生の多くが帰国中だったため、今回は留学生が6人と少人数だったが、例年10人以上の留学生が参加している。国籍も多様だ。
第1回
参加者12人/中国、韓国、ベトナム、パキスタン、アメリカ、ロシア、フランス、オランダ、セルビア等
第2回
参加者14人/中国、韓国、ポーランド、イタリア、イギリス、オーストラリア
第3回
参加者18人/中国、韓国、アメリカ、ドイツ、イギリス
内訳を見ると、1年間の限られた留学期間中、少しでも日本への理解を深めたい留学生が、洋の東西を問わず参加していることが窺える。
このたび、「留学生招待鎌倉ツアー」の企画・実施運営に携わっている如水会鎌倉支部長・仙頭靖夫氏に、お話を伺う機会をいただいた。主催者側の思い、ツアー中の留学生の様子や、今後の展望などについて、仙頭氏のお話をもとに「留学生招待鎌倉ツアー」の舞台裏をご案内しよう。
コンサート収益金の一部をツアー費用の原資に充て、毎回、鎌倉支部会員のボランティアがサポート
鎌倉というエリアには名所旧跡をはじめ数多くの観光資源がある。文化、歴史、宗教、四季折々の風景など、外国人が日本のさまざまなエッセンスに触れるうえで、最適なエリアの一つだ。しかしリソースがあれば即ツアーが組めるというものではない。そこには鎌倉支部ならではの、一橋大学に対する思いと、尽力があったのだ。
「鎌倉支部として、つねに母校を支援したいという思いがありました。私の前任の平尾光司支部長の時代に、建長寺で鎌倉支部主催のクラシックコンサートを行い、そこである程度まとまった収益金を得ることができたのです。一部は一橋大学に寄付したのですが、もっと目に見える形で母校支援をと、検討を重ねるうちに、外国人留学生を対象とした『留学生招待鎌倉ツアー』のアイデアが浮上してきたのです」(仙頭氏)
ただし一定規模の「ツアー」となると、人数や内容に応じた資金が必要になる。実に3年という準備期間を経て、第1回のツアーが実現した。当時の招待費用は、前年にやはり建長寺で行った支部主催のクラシックコンサートの収益金が充てられている。その後、コンサートの収益金をツアーの原資に充てるスタイルが定着。ちなみに、留学生の参加費は往復の交通費のみ(約3000円)で、神社仏閣の拝観料、昼食代、茶席料は鎌倉支部が全額負担している。
また、ツアーメニューを豊かなものにするうえで、鎌倉支部会員の人的貢献も大きい。毎回ツアーには鎌倉支部会員がボランティアで参加し、留学生をサポートしている。ツアー直前には、支部会員でもある本学中国交流センター代表の志波幹雄氏が、本学国際教育センターにお願いして授業の時間を割いていただき、参加留学生を対象に、鎌倉、禅文化、茶の湯などに関する事前レクチャーを行っている。鎌倉ツアーの目玉であり、毎回留学生の反響が大きい東慶寺のお茶会では、支部会員の田中豊氏が「亭主」(お茶会の主催者)を務めている。このお茶会は毎回、東慶寺住職夫人に大変お世話になっており、今年もすでに、11月に予定している第5回ツアーでの席をお願いしているとのこと。このようにさまざまな人たちの尽力によって、「留学生招待鎌倉ツアー」は単なる日帰り旅行に終わらない、意義深いものに高められている。
日本語が堪能で、事前の勉強も済ませた留学生から、踏み込んだ質問が飛び出すことも
如水会としてさまざまな形でサポートを提供しながらも、当の留学生が能動的に参加していることに、仙頭氏は「非常に刺激を受ける」と語る。「何といっても日本語が堪能ですね。その印象は回を重ねるたびに強まります。皆さん、もともと日本のサブカルチャーにとても関心が高く、子どもの頃から日本語や日本の文化に興味を持っていたそうです。『日本』がしっかり彼らの中に根付いているのですね」(仙頭氏)
如水会鎌倉支部長
仙頭靖夫氏
(1971年経済学部卒)
日本に対する興味・関心が高いうえに、ツアーの前にもしっかり下調べをしている留学生たち。当日、お茶会の場ではかなり踏み込んだ質問が飛び出すそうだ。「日本文化は季節感を大事にしているそうですね。今日出されたお菓子にも、その意味合いがありますか?」「茶室に入る時、最初に踏み出すのは右足ですか?
それとも左足ですか?」等々。お茶会で座っている時間は30分ほどであるが、留学生たちはしっかり正座をしているとのこと。「大したものです。鎌倉支部会員のほうが、30分も正座が続くかどうか怪しいですね」と仙頭氏は苦笑する。
一方で、謙虚に日本の文化や歴史に接する留学生の姿に、仙頭氏自身の留学経験が重なるそうだ。「勤めていた会社から、2年ほどアメリカの大学に留学させてもらったことがあります。私自身も外国で生活してみてはじめて、お互いのバックグラウンドを理解し、尊敬しあう大切さを肌で感じました。留学生の皆さんにとって、『留学生招待鎌倉ツアー』がそのきっかけになればと願っています。アジアの連携が叫ばれる今こそ、日本についてしっかり学び、母国との懸け橋になってほしいですね」(仙頭氏)
留学生は帰国後も、如水会海外支部のネットワークを活用できる
一橋大学で1〜2年間学び、それぞれの母国に帰っていく留学生。仙頭氏は、ツアーに参加する留学生たちに必ず伝えることがある。それは、海外の如水会ネットワークをどんどん活用してほしい、ということだ。
「パリ、モスクワ、北京......如水会は世界のさまざまな国に支部を置いています。留学生の皆さんが母国に帰ったら、ほとんどの場合、現地には支部があるはずです。そのネットワークをぜひ活かしてほしいのです。1年間のみの留学であっても、一橋大生に変わりありません。如水会員はいつでも相談に乗ります。特に海外支部会員は、ほとんどが30〜50代の現役駐在員です。接点を持っておけば、その後のビジネスなどできっとメリットにつながるでしょう。もちろん私たち日本の如水会員も、相談はウェルカムです。今はメールがありますから、何かあれば遠慮なく相談してほしいと伝えています。このネットワークこそが、一橋大学で学んだ人にとって最大のメリットですから」(仙頭氏)
仙頭氏自身、アメリカの大学で、「同窓会」が持つネットワークの力を目の当たりにしている。「日本においては如水会が、同窓生間のネットワーク構築を支援するような存在になれたらいいのですが」と氏は語る。
前述のとおり、今年11月には第5回「留学生招待鎌倉ツアー」が開催される予定だ。次回もより多くの留学生が日本の文化や歴史に触れて「日本」を体験し、如水会のネットワークと出合うきっかけとなることが期待される。
鎌倉の歴史的な背景を学ぶことができました
チョン・ドンギュンさん(韓国)
経済学部(日本語・日本文化研修留学生)
以前から日本の歴史や文化に興味があり、1人で神社仏閣を訪れたこともありましたが、深い理解にはつながらず、ただ見学して帰って来るだけでした。今回のツアーは、観光の見どころを丁寧に案内してもらい、鎌倉の歴史的な背景まで学べた有意義な体験でした。
神社仏閣の奥深さをはじめて理解できました
チョウ・リナさん(香港)
社会学部(交流学生)
香港大学で日本の研究をしています。私の興味・関心は日本の若者文化が中心だったこともあり、今までは神社仏閣はどこを見ても同じというような印象しかありませんでした。今回のツアーでは、ガイドしてもらうことで神社仏閣にも違いがあることが分かりました。
日本の伝統文化に触れた貴重な体験でした
ジョ・ギョクメイさん(香港)
法学部(日本語・日本文化研修留学生)
日本が大好きで、京都をはじめとして、沖縄、九州など日本の有名な観光地は一通り行きました。今回のツアーで最も印象に残ったのは、お茶会です。日本の伝統文化に触れる貴重な体験でした。卒業生の皆様の優しさに心より感謝しています。
(2015年7月 掲載)