令和6年学長年頭挨拶

中野学長新年あけましておめでとうございます。

新しい一年が始まるにあたり、一橋コミュニティの皆さんに向けて、あらためて、一橋大学が未来に向けて3つのビジョンを掲げて取組を進めていることをお伝えしたいと思います。

ひとつめは、私たちが2019年以来取り組んでいる指定国立大学法人構想です。私たちは、国際競争力と社会的インパクトの強化を大きな課題としている日本の社会科学の改革を牽引して、レジリエントな社会・経済システム構築に向けた知見と社会イノベーションを創出する世界最高水準の国際的研究・教育拠点に成長することをめざしています。

この構想のもとに、昨年4月には、新学部設置としては1951年以来72年ぶりとなるソーシャル・データサイエンス学部が大学院修士課程と共に発足して、新入生を迎えました。データサイエンスと社会科学の融合は、新学部・研究科にとどまらず全学に大きな波及効果をもたらしつつあります。また、社会科学高等研究院(HIAS)では、世界に開かれた先端的研究者集団の拠点形成に向けたHIAS Bridgesプログラムにより、活躍する多くの若手研究者が一橋コミュニティの一員となり、研究に邁進しています。

このほか、全学教員・職員の皆さんとともに、国際競争力の強化を加速するための構造改革などに取り組んでいることが高く評価され、3月には指定国立大学法人としての指定の継続を実現するとともに、令和5年度国立大学改革・研究基盤強化推進補助金への申請も認められました。これも、皆さんの努力の賜物であり、深く感謝申し上げます。

二つ目は、2022年度から6年間にわたる第4期中期目標・中期計画期間です。一橋大学が社会に示してきた強みや質の高さを生かしながら、さらに成長していくために必要な取組として、「開放性」「多様性」「社会連携」の強化をビジョンとして掲げ、その思いを「ひらく、つどう、つなぐ。」というメッセージに託しました。もちろん、中期目標・中期計画に書き込んだ取組を実行していくことも重要ですが、皆さんの身近なところで、ふと気が付いたことでも、ささやかなことでも良いので、「ひらく、つどう、つなぐ。」というメッセージにインスパイアされた取組が生まれることに期待しています。コロナ禍のあいだ、様々な営みが止まり閉じられていたことは残念でしたが、いまや「ひらき、つどい、つなぐ」営みが花開きつつあることを喜びたいと思います。

最後、三つ目は、来年2025年に迫った創立150周年を期に展開する150周年記念事業・記念募金です。一橋大学の起源は、1875年、森有礼が、世界水準の商業教育を通じて日本の近代化を担い国際的に活躍できる人材を育成することを目的に、当初は私設の学校として銀座尾張町に開いた商法講習所に遡ります。小さな学校は、渋沢栄一を筆頭とする実業界・民間からの支援と応援を受けて、1884年には東京商業学校、1920年には五つの帝国大学に続く官立(今で言う国立)大学としては初めてとなる東京商科大学となり、1949年には新制国立大学の発足にともない一橋大学と、名称は変わりましたが、150年という歴史の中で、Captains of Industryの精神を一貫して受け継ぎ歩んでまいりました。

そして、創立150周年を2025年に迎えるにあたり、私どもは、「ひとつひとつ、社会を変える。The Bridge to the Future HITOTSUBASHI 150th」を記念事業ステートメントといたしました。これからの150年を見据え、卓越した研究力と優れた人材育成力を更に発展させることを目指して、150周年記念事業を展開しています。

もちろん多岐にわたる記念事業を、私たちは可能な限り自己資金・自助努力によって実現していきますが、そのなかでも、現在の状況では国の予算や外部資金による支援が届きにくい、学生のためのキャンパス環境の充実などを実現するためには、広く社会からの一橋大学に対する支援が不可欠です。そして、150周年を期に、記念事業の実現および一橋の次の150年を支えていくために、一橋大学基金の一層の拡充に向けて、新たに150周年記念募金事業を開始しました。

2004年の国立大学法人化以来、国立大学の教育研究の基盤経費を支える運営費交付金の削減などが続くなかで、あらゆる国立大学法人が、教育研究の発展を支えるための財務基盤の拡充に向けて努力を続けています。一橋大学もまた、外部資金の獲得や事業収入の拡大などへの努力を通じて財務基盤の拡充に向けた成長戦略を展開しています。そのなかで、一橋大学基金は、他大学を遥かに上回る非常に大きな役割を果たしています。寄付の文化が定着していないといわれるわが国において、このことは、およそ日本の他の国立大学では考えられないような一橋の強みであり、一橋が人々の思いに支えられてきた大学、まさに卓越したコミュニティであることの何よりの証明であることを、私は大きな名誉と感じています。是非、皆さんにもこのことを知っていただき、一橋コミュニティに、より多くの皆さんがつどい、つながる営みを、共に担っていただければと願っています。

ご存知のように、冬の北半球では、現在、さまざまな感染症が流行しています。研究・教育そして大学を担う仕事に忙しい毎日を送っている皆さんには、どうか、ご無理のないよう、くれぐれもお体を大切に毎日をお過ごし下さい。本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

令和6年1月4日
一橋大学長 中野 聡



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