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令和3年度 大学院学位記授与式 式辞

令和4年3月18日
一橋大学長 中野 聡

皆さん、大学院学位授与・卒業おめでとうございます。

大学院学位を授与される皆さんのご両親、ご家族、ご親族そして関わりの深い方々にも、教職員一同とともにお祝いを申し上げます。

今年の大学院学位授与式もまた、コロナ禍のなか、様々の制限のなかで行われることになりました。とりわけ皆さんのご両親・ご家族の皆さんがこの美しいキャンパスの杜にお出でいただけないことは大変に残念です。また、国境の往来が依然として厳しく制限され、様々の事情から望んでもこの式に参加できない皆さんがいます。ライブ配信を通じて、できるだけ多くの皆さんがこの場を共有していただけていることを願っています。

ここに集っている皆さんが取得した学位は、修士・専門職学位・博士と多様であり、またその専攻する学問領域も社会科学・人文科学の多方面に渡っています。皆さんが主に学んだ場所・空間も、国立キャンパス、千代田キャンパスと分かれていて、今日まで顔を合わせたこともなかった皆さんも多いことでしょう。学位取得までの期間も課程により人により様々であって、一年で修了する皆さんもいれば、博士学位課程の皆さんのなかには気が遠くなるような時間を過ごしてきた方もいることでしょう。

 昨年の大学院学位授与式では、このように様々の道のりを経て、今日この兼松講堂にやって来た皆さんも、コロナ禍の研究生活に苦労を重ねてきた思いは共通しているでしょう、そのような話をさせていただきました。また、現実を見るある種の冷静さを基礎としているという意味での科学的な姿勢、構えが、一橋大学という卓越した学術コミュニティにおいて、教員や同僚院生と時を共にするなかで自然と身についていく、そこから生まれる絆を感じてもらいたい、そのような話もさせていただきました。

それから一年がたった現在、ウクライナにおける戦争が世界に大きな衝撃を与えています。

今回のロシア連邦によるウクライナに対する侵略は、国際関係における武力による威嚇又は武力の行使を禁じる国連憲章に明確に違反する行為であり、決して許されてはなりません。ヨーロッパの歴史では第二次世界大戦以来となる大規模な地上戦によって、多くの非戦闘員・市民が犠牲となっており、大量の難民が発生し、人道危機が深まっています。つい数日前には、国連グテーレス事務総長が「かつては考えられなかった核戦争が、可能性の領域に舞い戻ってきた」と述べました。ウクライナの戦争は、いま、直ちに停止されなければなりません。

同時に、私たちの思いは、この戦争によって影響を受けている全ての人々に向けられなければならないと感じています。日本の大学はウクライナ、ロシアなど関係諸国から多くの留学生・研究者とその家族を受け入れています。日本でもっともグローバル化した大学院のひとつである一橋大学も、その例外ではありません。とりわけ、大学のミッションとして、日本及び世界の自由で平和な政治経済社会の構築に資する知的、文化的資産を創造し、その指導的担い手を育成することを宣言している一橋大学は、あらゆる分断をのりこえて、平和を創造する学術コミュニティであり続けるべきだと私は考えます。

 これまでも一橋大学には、国や体制の違いなどで立場や背景の異なる大学院学生諸君が学び舎をひとつに研究に励んできました。大学院ともなれば、それぞれの国を背負い派遣されて来る皆さんもいれば、個人として、束縛されることのない自由な研究を求めて来る皆さんもいます。そして、社会科学・人文科学の学徒であればこそ、鋭く対立する見解をもち、それぞれの学問の作法に従って自らの正しさを証明しようと全力を尽くそうとするでしょう。

このように立場や目指すものが異なる諸君が、学問の自由と安全が守られた環境のもとで意見を戦わせ、互いを鍛え、対話の質を高めていく。先ほど述べたことの繰り返しにもなりますが、そのような営みを通じて、一橋大学という卓越した学術コミュニティで時を共に過ごすことにより生まれた絆、培った友情は、長い目で見た平和の創造に大きく貢献してきたのではないかと私たちは自負しています。そしてこれからも、一橋大学はそのような存在であり続けたいと考えています。

皆さんのこれからの進路はまさに多様です。そして、コロナ禍がそうであるように、戦争の激動や、気候変動で危機に直面する地球環境など、世界の現実は、皆さんひとりひとりのこれからの歩みに大きな影響を与えていくことでしょう。活躍する場はそれぞれですが、修士・専門職学位・博士という学位を背負うがゆえに、皆さんがこれから関わっていく社会、企業、国家などとの関係で自らを厳しく問われる局面も訪れるかもしれません。そのようなときに、国立キャンパスで、千代田キャンパスで、さらにはオンラインでつながる一橋コミュニティで自らのものとした学問が必ずや皆さんを支えることを願っています。

そして、どの分野に進んでも、また世界の何処に居ても、皆さんは、一橋コミュニティの一員であり続けることを忘れないで欲しいと思います。建学以来、本学の名声の基となってきたのは、本学が生み出してきた人材に対する高い評価と期待です。皆さんが拡げていくネットワークに大いに期待しています。そして活躍する皆さんが本学を再訪するときを、国立キャンパスで、千代田キャンパスで私たちは待っています。

皆さん、あらためて学位取得・卒業おめでとうございます。ご清聴ありがとうございました。



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