令和4年学長年頭挨拶

中野学長新年あけましておめでとうございます。

2021年、昨年もまた、コロナ禍に明け、コロナ禍に暮れる一年となってしまいました。あらためて、不幸にして病に倒れた人々に哀悼の意を表し、医療・保健所など命を守る人々の努力に感謝するとともに、心から皆さんのご健康をお祈りします。

昨年は、一橋大学にとって忘れられない出来事がいくつもありました。2月、コロナ禍のために遅れて放送が開始されたNHK大河ドラマ「青天を衝け」は、本学の建学後半世紀あまりにわたる歩みを助け、幾度もの危機を救った恩人である渋沢栄一と一橋との縁を改めて思い起こし、一橋の来歴とその教育研究を貫いてきた志について考える契機となりました。

春には、一昨年の4月以来閑散としていたキャンパスに学生諸君の姿が戻ってきました。卒入学式は「密」を避けるために学部別に行いましたが、一昨年入学式ができなかった諸君を迎えての二学年合同入学式も含めて、総ての卒入学生を兼松講堂から送り出し、兼松講堂に迎え入れることができました。8月からは、その兼松講堂が東京都設置のワクチン大規模接種会場となりました。10月末まで、接種会場係員の皆さんや接種のため兼松講堂を訪れる都内の大学生・教職員の皆さんの姿が、西キャンパスの景色の一部となりました。

この間、感染急拡大期も含めて、一橋大学はキャンパスや課外活動において新型コロナウイルス感染症の拡大防止に努め、クラスターの発生を抑止してきました。これも学生・教職員の皆さんが学業や職務、課外活動や日常生活などにおける厳しい制約に良く耐え、市民としての責任ある行動に徹した結果であり、深く感謝いたします。また、一橋大学基金が呼びかけた「コロナ禍で経済的に困窮した学生への緊急支援」などに対して、卒業生・如水会会員をはじめ一橋大学を応援する皆さまから、心温かい励ましとご支援を賜って参りました。深く感謝申し上げます。国立市・小平市をはじめとする地域の皆様にも、コロナ禍が暮らしに大きな影響を与えるなかで、学生諸君を応援して下さり、また感染拡大防止に向けた一橋大学の取組にご理解とご協力をいただいていることに深く感謝申し上げます。

1875年、本学は、近代日本の建設のためには、実業界において公共の福祉に対する奉仕の精神をもつ国際的に通用する教養の豊かな指導的な人材の育成こそ国家が担うべき事業であるという信念から創立され、20世紀を通じて日本を代表する社会科学の総合大学として成長してきました。その基盤となってきたのが、最高水準の研究を展開する教員と優れた学生・院生がゼミナールに代表される少人数教育などを通じて対話し結びつくことで育まれてきた一橋独自の知的伝統がもたらす高度人材育成と知識創造の強み・質の高さです。

過去1年間に限っても、一橋は、その強み・質の高さをさまざまな形で社会に示してきました。7月には、大学院経営管理研究科・経営管理専攻/商学部(SBA)と国際企業戦略専攻(ICS)が、日本の国公立大学としては初めてAACSB国際認証を取得しました。9月にはさっそく同認証取得をランクインの条件とするQSグローバルMBAランキングにおいて、ICSが国内1位を獲得しました。法科大学院修了者の司法試験累積合格率も全国1位を続けており、一橋は名実ともにビジネススクール、ロースクールにおける日本のトップ校であり続けています。また、新規科研費の採択率で多年にわたり全国首位の水準を維持していることは、すべての研究科にわたる本学教員の研究力の高さを証明するものです。11月には、一橋大学経済研究所が、共同利用・共同研究拠点「日本および世界経済の高度実証分析」の期末評価において、中間評価に続いて最も高い(S)評価を獲得しました。さらに、2021年秋の褒章受章者として、経営管理研究科教授の沼上幹先生が、その多年にわたる経営学分野における功績に対して紫綬褒章を受章されました。

このように一橋大学が社会に示してきた強みや質の高さを生かしながら、現在、私たちは、指定国立大学法人として、国際競争力の飛躍的向上や文理共創による新しい社会科学の創造などを通じて、日本の社会科学の水準全体を向上させ、グローバル・ウェルフェアに貢献する、社会科学における世界最高水準の教育研究拠点に成長していくことをめざしています。昨年は構想の実現に向けて一橋大学が懸命に歩んだ1年でもありました。AACSB認証の取得、経済研究所の(S)評価もその成果であり、また、現在、2023年4月の開学に向けて、ソーシャル・データサイエンス学部・研究科(仮称)の設置申請に向けた準備が大詰めを迎えています。これらの歩みがいずれも全学教職員の献身的な努力があって初めて可能であることは言うまでもなく、感謝とともに、もちろん「働き方改革」と両立させつつではありますが、さらなる目標に向かって共に歩を進めていただきたいと思います。

また、世界最高水準の教育研究拠点の構築に向けた改革のためには財務基盤の拡大が必須であり、2020年度入学者から学士課程全学部について、2021年度入学者からは大学院経営管理研究科修士・博士後期・専門職学位課程について授業料を改定させていただきました。学生・関係する大学院生・保護者の皆さんのご理解とご協力に感謝し、授業料改定による教育研究の充実に全力をあげて取り組んで参ります。

さて、いよいよ本年4月からは、6年間にわたる、国立大学法人の第4期中期目標・中期計画期間が始まります。そしてこの期間中、2025年に創立150周年を迎えることになる一橋大学は、その歴史と伝統を継承しつつ、社会科学における世界最高水準の教育研究拠点として日本の社会科学を牽引するという指定国立大学法人構想のビジョンの実現に向けて、「開放性を高める」、「多様性を高める」、「社会連携を強化する」という3つの目標を掲げて歩もうとしています。少しだけ説明します。

第一に、「開放性を高める」=ひらく。:一橋大学の教育の特色である少人数ゼミナールや学部・研究科間の垣根の低さを生かした学部・大学院教育をさらに高度化・国際化する(世界に開く)とともに、一橋大学の膨大な教育研究の知的資産とその強みを生かした人材育成モデルを、専門職大学院やリカレント教育等を通じて社会に開放し、社会に評価される教育研究事業と財務基盤強化の好循環を推進する(社会に開く)という目標です。

第二に、「多様性を高める」=つどう。:文理横断のソーシャル・データサイエンス教育研究の確立などを通じて我が国の社会科学の革新に貢献するとともに、多様性を重視した戦略的人事を全学で展開することにより、世界に開かれた先端的研究者集団の拠点を形成することなどによって、一橋大学が、文理やディシプリンにおいても、年齢・ジェンダー・国籍などにおいてもより多様な人々がつどう場となるという目標です。

第三に、「社会連携を強化する」=つなぐ。:社会科学系大学としての独立性を保ちながら、国内外の卓越した教育研究機関、政府・非政府機関、企業など多様なステイクホルダーと包括的で戦略的な社会連携(つながり)を推進することによって、SDGsの達成などに向けて貢献しようという目標です。

一橋大学学生・教職員の皆さん、一橋大学に関心をもつ全ての皆さんには、一橋大学という卓越した学術コミュニティの魅力を未来に向けてさらに高めていくために、一橋の開放性と多様性を高め、社会連携を強化していく=ひらき、つどい、つないでいく営みに向けて、是非、力を合わせていただきたいと思います。

引き続き、コロナ禍の収束が見通せない毎日が続きます。どうか皆さん、くれぐれもお体を大切に毎日をお過ごし下さい。誰もが明日に夢を感じられるようになる、そんな一年にこれからなっていって欲しいと心から願っています。本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

令和4年1月4日
一橋大学長 中野 聡



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