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学長からのメッセージ

写真:一橋大学長 中野聡
一橋大学長 中野 聡

一橋大学は、建学以来、各界の指導的担い手を育成するとともに社会科学の諸分野を中心として最高水準の研究を展開する卓越した学術コミュニティとして歩んできました。21世紀の世界は、地球環境の危機、格差と分断がもたらす紛争と対立、グローバリゼーション・少子高齢化・サイバー空間の拡大などがもたらす急激な社会変動など、複雑で困難な諸課題に直面しています。さらに新型コロナウィルス感染症によるパンデミックが大きな歴史的衝撃を人類にもたらしている現在、大学は、未来を担う人材の育成と地球社会の持続可能な営みに資する知の創造と協働に向けて、ますます重要な役割を果たすことが期待されています。2019年、指定国立大学法人の指定を受けた一橋大学は、その歴史と伝統を継承しつつ、これら21世紀の諸課題に応え得る新たな社会科学の創造に挑戦しています。

本学の起源は、1875年、森有礼が当初は私設の学校として銀座尾張町に開いた商法講習所に遡ります。渋沢栄一や勝海舟らの協力を得て、アメリカから商業教育の専門家であるウィリアム・ホイットニーを招いて開学したことが示すように、建学の原点は、世界水準の商業教育を通じて日本の近代化を担い国際的に活躍できる人材を育成することでした。1884年、商法講習所は東京商業学校となり、翌年に神田一ツ橋に移転。1920年には官立の東京商科大学に昇格しました。そしてまもなく発生した1923年の関東大震災を機に、当時としては画期的な郊外移転を決断した本学は、現在の国立・小平にキャンパスを移転しました。ひとりひとりの学生と教員が向かい合い、社会の改善を高く志すとともに自由と個性を尊重する本学独自の学風は、武蔵野の清々しい空気のなかでさらに開花して、独自の個性と魅力を備えた商業・経済系大学として、商学、経済学から、法学、社会学、さらには哲学、歴史学など、人文社会科学の諸領域における研究と教育が発展していきました。そして第2次世界大戦後の1949年、新制国立大学の発足にともない本学は一橋大学と名称を変えて、あらためて「社会科学の総合大学」として自らを位置づけ、1953年には、商、経済、法、社会の4学部・大学院研究科と経済研究所を擁する社会科学の最高学府となりました。

20世紀後半から21世紀の現在に至るまで、一橋大学は、変化する社会の要請に応えながら、社会科学の発展と学部・大学院における卓越した人材の育成に邁進してきました。商、経済、法、社会の4学部・研究科に加えて、1990年代には大学院に言語社会研究科と国際企業戦略研究科が、2000年代には法科大学院および国際・公共政策大学院がそれぞれ加わりました。2018年には、大学院における高度専門職業人教育の強化をはかるために商学・法学・国際企業戦略の3研究科を再編統合して一橋ビジネススクール(HUB 経営管理研究科)と一橋ロースクール(新たな法学研究科)が発足しました。これらの学部・研究科、経済研究所、2014年に設立された社会科学高等研究院は、全国屈指の規模をもつ附属図書館とともに最高水準の学術研究教育の基盤を提供しており、内外の研究者が集い、研究成果を国際的に発信する拠点ともなっています。

このような建学以来の歩みのなかで一橋大学は、一貫して、この卓越した学術コミュニティから「豊かな教養と市民的公共性」を備えた人々を世界に送り出すことをめざしてきました。なかでも重視してきたのは、本学伝統のゼミナールなど密度の濃い双方向の少人数教育を通じて、教養と知識、判断力と構想力に富み、また各界で国際的に活躍する優れたコミュニケーション能力を備えた人間を育成することです。さらに21世紀の一橋大学は、高度な英語教育や海外調査・インターン、長短期の留学などを通じて全学生が国際社会で活躍する基礎能力をしっかりと獲得するためのカリキュラム(グローバル・ポートフォリオ)を実施するなど、グローバル化する地球社会の課題解決に貢献し得る指導的人材の育成に力を注いでいます。海外各国のトップ校と結んだ学生交流協定を基盤とする長期派遣留学生の送り出しでは長年にわたり高い実績を誇り(126人、2018年度)、広く海外から本学をめざして入学する留学生も全在籍学生の約14.5%にのぼり(2019年5月1日、交流学生・研究生を含む)、千代田と国立の両キャンパスにグローバル・コミュニティを創り出しています。

伝統的に学部・研究科間の垣根が低く、所属外の学部・研究科の科目を自由に履修できることも学術コミュニティとしての本学の大きな特色です。東京医科歯科大学・東京外国語大学・東京工業大学との四大学連合が提供する複合領域コースや多摩地区国立5大学単位互換制度や津田塾大学・一橋大学単位互換制度などにより自然科学を含む他大学の科目履修も可能で、これら多大学間コミュニティへの参加を通じて学生は幅広く学際的に問題意識と方法論を身につけることができます。さらに「一橋大学の目標と使命の達成に協力」する同窓会組織である如水会に代表されるように、卒業生と母校の建学以来の固い絆も、本学の大きな資産です。一橋大学基金などへの個人・法人の寄附金が大学の収入に占める割合(約7.3%、2019年度)は、全国の国立大学でトップクラスを誇っています。現在、パンデミックの大学キャンパスに対する深刻な影響が拡大していますが、私たちは、どのような環境のもとでも、これら一橋大学の卓越したコミュニティとしての美点を守り育てていきたいと考えています。

2019年、一橋大学は「我が国の人文社会科学分野において教育研究の卓越性を誇る大学」として指定国立大学法人の指定を受け、社会科学分野の戦略的重点化領域を設定するとともに、ソーシャル・データサイエンス領域における研究教育を飛躍的に充実させて新学部・研究科を設置し、自然・人文・社会諸科学の境界を越えた協働に向けて、文理横断の社会科学創造をめざしていきます。そして、恵まれた環境のなかでひとりひとりの学生を丁寧に育て、自由で独創的な研究を生みだしてきた本学の歴史を大切にしながら、一橋大学は、多様性と包容力に富む卓越したコミュニティとして自らをつねに鍛え直し、地球社会の課題に取り組む、個性と魅力にあふれる大学としての役割を果たしていきます。



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