アーレント哲学の「現われ」をめぐる問題——『判断力批判』の再読を手がかりとして
本研究の目的はアーレント思想の美学的問題を彼女の政治思想のなかに位置づけることである。博士課程の一年目には,アーレントも影響を受けている生物学の環境世界論が人種主義的な背景をもつものであること,ならびに哲学的言説としての環境世界論(とりわけハイデガーの世界概念)のアーレント哲学への影響を研究する。そのうえで博士課程の二年目に,アーレントが晩年に引用する生物学者アドルフ・ポルトマンの言説が,それまでの環境世界論とどのように異なっているのかを検討するとともに,アーレントの帝国主義論が環境世界論に連なる人種主義的言説をどのように批判しているのかを精査する。さらに三年目には,カントならびにアーレントのテクスト自体が孕む人種主義的要素を批判的に検討しながら,アーレントのポルトマン論をカント再読解の文脈の中に置き直すことで,そうした人種主義的言説を解体する契機をアーレント自身のテクストに見出していく。