規範理由のクラスター説を擁護する

本研究は、理由(reasons)という概念を手がかりに、規範性(normativity)の本性を明らかにすることを目的とする。規範性とは、〈何かをそうすべきだ〉という性質であり、哲学・倫理学において中心的な概念である。近年、この規範性を理解するために〈理由〉からのアプローチが注目されているが、〈理由〉それ自体が正確にはどのような概念なのかはいまだ十分に解明されていない。従来の理論では、ある一つの事実がそのまま行為や判断の理由になると考える「原子説」が前提とされてきた。しかしこの見方では、実際の行為や判断の複雑さを十分に説明することができない。そこで、本研究はこの前提を見直し、複数の要素が組み合わさって行為や判断を支持する理由となるという「クラスター説」を擁護する。第一段階では原子説を批判的に検討する。第二段階でクラスター説を擁護する。第三段階ではクラスター説が規範性の説明に果たす役割を具体的に示す。