明清期以降の江南地方における民間信仰と地域社会——穹窿山周辺地域を中心に
中国地域社会の統合に作用した重要な要素として、宗族組織、宗教結社、市場などがあった。スキナーは古典的な著作の中で、中国を経済的に重要な9つの地域に分割しており、それぞれの地域には中心(Core)と周縁(Periphery)が存在した。従来の江南地域社会に関する研究では中心部に焦点が当てられてきており、江南先進地帯の周縁部には十分な注意が払われてこなかった。濱島敦俊は明末清初における市鎮の叢生と民間信仰との関係を探ったが、広大な農村地域において近代に至っても継続した人口の流入や土地開発などについては依然として明らかにされていない点が多い。この点について、複合的な中心―周縁関係に着目した検討を本研究では着想している。これまでの研究の多くが市鎮側に偏っていたことに対して、本研究では丘陵や水辺などの「周縁」地帯に注目する。これらの「周縁」地域の開発過程における形成された民間信仰と社会秩序との関係が本研究の基本的な着想である。