近代国民国家と身体

 本研究は、法学における「人間と動物の区別」という主題を中心に展開する。人間の身体を生物学的側面のみで捉えた場合、人間の身体と動物の身体の区別が不可能になる。法律の基本的な枠組みの一つが「人間」と「物」の区別であり、人間は権利を享受する尊厳ある主体であるが、物は尊厳がなく所有権の客体として自由に処分されるため、もし人間と動物の区別が不可能であれば、人間の身体は物として把握されて、奴隷やアウシュビッツの回教徒のように「処分」されることになる。 本研究は「アウシュビッツ」という近代が残した問いに応える。憲法学は「人間の尊厳」によって克服したとしてきたが、人種主義がいまも席巻する現実を見るとき、果たして憲法学はアウシュビッツの問題を解決したのかには疑問が残る。本研究はこの問題に対する一つの解答を提示し、分断が拡がる世界的な情勢に対して、新たな自由な社会のあり方を示す。