他者、環境との関わりで変化する選好の実証・理論研究

開発経済学は教育、健康などの開発課題を分析し、貧困削減の実践的な方法を考察する学問である。その分析の前提として、利己的・合理的に行動する個人の選好は一定であると想定しているが、開発経済学の多くの実証研究で戦争、災害などの外生的なショックにより、この選好が変化することが明らかになってきた。しかし、選好が変化するメカニズムは解明されておらず、経済における人間のあり方を正しく理解できなければ、新たな政策を提言することはできない。そこで本研究は、人間が社会的な存在であることに着目し、他者、環境との関わりでどのように選好が変化するのかを検証する実証研究を行い、それらの結果をもとに理論的な統合を試みる。実証研究では、メキシコ麻薬戦争において恐怖や怒りの感情、ナラティブ、家族状況がリスク・時間・社会的選好にどのように影響を与えるのかを明らかにし、心理学の知見とのつながりも理論的に精査する。