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関西・中部合同アカデミア 「新局面に入る米中の戦略的競争と日本」

2021年7月1日 掲載

米中関係は、ハイテク覇権をめぐる競争や台湾をめぐる対立に象徴されるように、厳しい戦略的競争状態に入っている。バイデン政権がスタートし、米国の対中政策は新たな方向性を模索しているものの、軍事的にも経済的にも台頭する中国への警戒感は引き継がれている。一方、気候変動問題などバイデン政権が重視するグローバルな課題への対応においては、中国との協調が不可欠との見方もある。
こうした中、今後の米中の戦略的競争はどこに向かうのか、そして日本の取るべき進路はいかなるものなのか。日本を代表するアメリカ及び中国の政治、外交、経済の専門家とともにオンラインで議論を行った。

画像:中山 俊宏氏

中山 俊宏氏
慶應義塾大学総合政策学部教授

画像:津上 俊哉氏

津上 俊哉氏
日本国際問題研究所客員研究員

画像:吉崎 達彦氏

吉崎 達彦氏
株式会社双日総合研究所チーフエコノミスト

画像:秋山 信将 法学研究科教授

秋山 信将
一橋大学大学院法学研究科 国際・公共政策大学院教授

秋山教授の司会挨拶の後、一橋大学副学長の大月康弘教授が「約650名もの事前参加登録をいただいた段階で成功と受け止めている」と多くの参加者へ感謝の意を表し、開会挨拶を行った。

続いて、「米中の戦略的競争の行方:米国新政権の動向と中国の出方」と題して、パネル・ディスカッションのパート1に入った。

米中関係の変遷と現在

まず、中山氏が発言。「冷戦終焉後の世界は米国が圧倒的に優位な"一極世界"と言われ、その後中国が台頭してきても、自分たちの価値観に似せてつくり変えることができるという楽観論に支配されていた。それを基に寛容政策が取られたが、中国はそのとおりにはならなかった。一時、大国化する中国との共存を模索し、G2的な発想にアメリカは取り憑かれたが、米国の対中政策は幻想に基づいていたとの認識が広まる中、対立色を強めていく。中国は大国間競争の文脈で、アメリカに対するチャレンジャーと位置付けられるようになった。2010年代の半ばには現在の中国に対するタフな姿勢に転じ、2017年のトランプ政権で中国を"戦略的競争相手"と定義し対中強硬政策の方向に舵を切った。現在のバイデン政権は、引き続き中国に対してタフな姿勢で臨むものの、競争激化を制御しようとしている」と米国における対中政策の変遷を整理した。

次に、津上氏が「多くの中国人は、国内が分断化されたアメリカを見下している。習政権も『時間は中国の味方』と自信を深めている」と、中国が米国をどう見ているかについて触れるとともに、「経済の側面からは懐疑的」と、中国の問題を次のように指摘した。
「中国は米国に依存することなく経済成長を遂げるべく内需重視にシフトし、科学技術強国を目指して巨額の投資を行っている。コロナのパンデミックで世界経済が沈む中、中国は世界の主要国で唯一経済を成長させている。しかし、その財政負担の爪痕は大きい。将来展望も、少子高齢化対策の手遅れ状態、不良債権の温存、不動産バブルによる歪みといった問題が山積している。米国も傷んでいるが、中国も衰退の方向にある」

次に、吉崎氏が米中関係についての自説を述べた。
「米国はイラク戦争、リーマン・ショック、コロナとエラーが続いた一方、経済が好調な中国は米国の背中が見えている。GDPの米中逆転は近くなったと思う。一方、中国を好ましく思わない米国人は増えた。共和党、民主党どちらもトータルでは中国に対する姿勢に大きな違いはないものの、重視するイシューには違いがある」と、縦軸に安全保障・経済・グローバルイシュー、横軸に協力要因・対立要因を取った米中関係のポートフォリオを提示した。

中国の台頭と米国の対応

パネラーの一通りの発言を受け、司会の秋山教授が「両国とも国内の懸念事項に対処しつつ対中・対米関係に向き合っていかなければならない状況にある。これをどう管理していくかが両国の大きな課題」と整理し、さらに議論を深めるべく発言を求めた。

中山氏は、「中国の台頭が米国にとって死活的問題だという大きな合意はあるものの、いかなるアクションを取るべきかということになると、まだまだ揺れはあり、特に国民の間では迷いがある」と指摘。そこで、対中国戦略として「同盟国をフルに動員して多国間で対処していかざるを得なくなっている」と話した。

これを受け、吉崎氏は「デカップリング※1の動きがあるが、中国をサプライチェーンから外せるのか。日本企業にとっては非常にナーバスな問題」と指摘。米国は中国に対処するべく対米投資制限法や輸出管理法を成立させたが、「返り血を浴びない程度に少しずつ進めていくことで管理している」と解説した。

津上氏は、「米国は中国の台頭に直面し、頭や感情を整理できていないのではないか」と疑問を呈した。米国が本気になれば中国など抑えつけられると考え、本気になれていない面があるという。「中国が思っているとおり、米国が落ちるところまで落ちないと底力が出せないのではないか」と懸念を示した。

日本の対応を見直す必要性

休憩を挟み、「米中の戦略的競争への日本の対応」と題するパート2に入った。

まず、吉崎氏が「日本人は米国人同様、自分が見たいように中国を見ていた」と発言。今や中国のGDPは日本の3倍と大差がついている。日中貿易も、品目上位にはハイテク製品が並んでいる。「田中角栄、竹下登の"日中友好"を旗印にした"経世会ビュー"から"戦略的互恵関係"を唱えた小泉純一郎、安倍晋三の"清和会ビュー"に変わった。しかし、それがどれだけもつのか。次の日中関係のフォーマットを考える必要があるが、"普通の関係"ではないか」と話した。

津上氏は、米中間のハイテク冷戦の問題を取り上げた。中国には理工系学生が米国の4倍いてレベルも高く、米国の大学にも数多く留学している。「中国は従来の"コピーキャット※2"のままと考えている向きも多いが、この5年で独自に発展している」と話す。米国がファーウェイを潰そうと考えても潰せない。それどころか、規制を厳しくしたことで世界的な半導体不足というマイナスをもたらした。自分で自分の首を絞めている状態に、国内からも悲鳴が上がっている。対中ハイテク政策は行き過ぎの面があるが、日本はこれにどう付き合うべきなのか。「米国法の域外適用はダメだと明確に指摘し、真に規制すべきことは自国で行うと正論で迫るべき」と強調した。

日米同盟以外のオプションはない

続いて中山氏が「中国の覇権的、地政学的な野望に依拠した台頭に日本単独では対応できない。どんなツールがあるか」と問題を提示。自国のフル武装、国連等の国際的枠組みなどを挙げたうえで「日米同盟以外のオプションはない」と断言。そのうえで、「米国には国内問題もある中、自国の国益に大きく関わらないところで自国の若者の命を落とす危険にさらす機運はない」と続ける。これまでの日米関係は一部の政策エリートが管理・更新してきたが、今後は政治がなぜ日米同盟を選択しているのかを国民に語り、主導する必要がある。「中国が台頭してきている中、日本国民は自覚的に日米同盟を選択し直す必要があるからだ」と指摘した。

津上氏は、「日本はTPPをまとめたことで諸外国から評価されている。米中対立はみんなが困ること。日本は自由貿易を旗印に中小の国をオーガナイズし、対立はほどほどにせよと声を上げることも大事」と提言する。

多元的な価値共有の必要性

次に、秋山教授は台湾問題にテーマを振る。

吉崎氏は「『台湾は一つの中国』と中国は半世紀以上言い続けているが、誰もその根拠を説明できない。風化していくのは当たり前で、中国の言い分は無理筋」と指摘する。

中山氏は、「米国は、『中国配慮』から、台湾自身に目を向け、政策を見直しつつある。その表れの一つが、バイデン大統領が就任式に台湾の代表を招いたこと」と話す。ただ、一気に舵を切るのではなく、一般の席に座らせることでバランスを取り、中国に対し「台湾問題への懸念」のメッセージを送った。

ここで秋山教授は、「日本はどこまで米国の価値観外交に付き合うべきか」と意見を求めた。

中山氏は「一つの原則に縛られる必要はなく、局面に応じて対応すればいい」と指摘。目下の主戦場の一つは東南アジアであるが、必ずしも民主主義が大義という国ばかりではないからだ。「日本が米国に対して、東南アジアでは多元的な価値の共有を前面に打ち出すことをリードすべき」と言う。

米国主導の国際秩序と中国主導体制は併存するか

これを受けて秋山教授は、「民主主義が旗印とならないならば、米国主導の国際秩序と中国が主導する体制は併存するのか?」と問うた。

津上氏は、「中国は米国の価値体系に対峙できるものを提示できていない」と指摘。習主席世代中心の共産党を変えるのは困難で、世代交代を待つよりほかない。中国はこれまで、経済状況に応じて西側に接する態度を変えてきた。「いずれ現状の党の在り方を反省する時が来る」と言う。

吉崎氏は「QUAD※3が面白い」と言う。日米豪だけではインパクトは薄いが、そこにインドが加わると俄然凄いもののように思われるからだ。

中山氏は「このQUADによる『自由で開かれたインド太平洋(FOIP※4)』は、国によって対中観に温度差がある中、中国の覇権的野望に対する懸念をここに流し込む概念として有効」と指摘した。中国の攻勢に1対1で対抗するのではなく、その実現を複雑化させる仕掛けとなるということだ。

津上氏は、「これから10年、危ない橋を渡る厳しい時期。中国の変化を忍耐強く待つ必要がある」と話す。挑発すれば国内世論が黙っていないからだ。また、中国も米国も世代によって自国や相手国に対する見方は異なる。変化をよく見る必要があるということだ。

"Responsible Competition"が求められる

ここで秋山教授は、セミナー視聴者からの「憲法9条がある中で、日本は地政学的リスクにどう折り合いをつけるべきか」との質問を取り上げた。

吉崎氏は、「偶発的に問題が起きた時、案外世論は一瞬で変わるのではないか」と日本の歴史を根拠に推測する。

中山氏は「まず日本が動いて領土を守る体制がなければ、日米同盟は機能しない」と指摘。そのために不足していることをリストアップして対処する必要があると言う。「ある米国の識者が、米国が中国に向き合うには"Responsible Competition"が求められると指摘した。まさに日本にも問われることだ」と話した。

「協調と対立がまだら模様の中、米中関係にどう対応していくべきか、整理に時間がかかるだろう。日本は自律的に外交ポートフォリオを整理し"責任ある競争"戦略をもって短期的、中長期的に対応していく必要があるといえる」と秋山教授は締め括った。

※1 デカップリング:2国間の経済や市場が連動していないこと。
※2 コピーキャット:模倣者。
※3 QUAD:日本、米国、オーストラリア、インドの首脳や外相による安全保障や経済を協議する枠組み。
※4 FOIP(Free and Open Indo-Pacific): 自由で開かれたインド太平洋

画像:オンライン議論の様子

概要

日時

2021年2月27日(土) 14:00~16:30

開催方法

オンラインによるセミナーとして開催

プログラム

司会挨拶

秋山 信将 一橋大学大学院法学研究科、国際・公共政策大学院教授

開会挨拶

大月 康弘 一橋大学副学長

パネル・ディスカッション

パート1「米中の戦略的競争の行方:米国新政権の動向と中国の出方」
パート2「米中の戦略的競争への日本の対応」

パネリスト

中山 俊宏 氏 慶應義塾大学総合政策学部教授
津上 俊哉 氏 日本国際問題研究所客員研究員
吉崎 達彦 氏 株式会社双日総合研究所チーフエコノミスト

モデレーター

秋山 信将 一橋大学大学院法学研究科、国際・公共政策大学院教授