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新たな時代の高度経営人材育成をリードする、「一橋ビジネススクール」(HUB)を開設

  • 商学研究科長蜂谷 豊彦
  • 国際企業戦略研究科長一條 和生

2018年冬号vol.57 掲載

2018年4月、一橋大学は現在の商学研究科と国際企業戦略研究科を「経営管理研究科」として統合し、新たに「一橋ビジネススクール(Hitotsubashi University Business School)」=《HUB》を開設する。
企業を取り巻く環境がかつてないほどに不確実性・複雑性を増し、先を見通しにくくなるなか、これに打ち勝つことのできる高度経営人材の必要性が高まっている。
ビジネススクールの統合は、こうした時代の要請に応えることが最大の目的だ。
一橋大学のルーツは、明治維新直後の激動の最中1875年(明治8年)に、将来の日本経済を支える経営人材を育成するために、森有礼によって設立された私塾「商法講習所(The Commercial Training School)」にまで遡る。
その後、東京高等商業学校、東京商科大学を経て発展してきた一橋大学は、日本におけるビジネス教育・研究の中心として、企業・社会の中核を担う人材であるキャプテンズ・オブ・インダストリーを数多く輩出している。
「一橋ビジネススクール」(HUB)は、そんな建学の精神に立ち返って開設されたものだ。
社会人学生の目的の多様性に対応し、異なる特徴を持つ6つのMBA(経営学修士)プログラムが開講される。
新たな時代の高度経営人材育成をリードするMBAプログラムには、熱い期待が寄せられている。
今後の展望について、商学研究科長・蜂谷豊彦教授にお話を伺った。

蜂谷豊彦教授プロフィール写真

蜂谷 豊彦教授

商学研究科長

一條和生教授プロフィール写真

一條 和生教授

国際企業戦略研究科長

経営管理専攻と国際企業戦略専攻の2専攻に異なる特徴を持つ6つのプログラムを開講

一橋ビジネススクールのMBAプログラムは、経営管理専攻と国際企業戦略専攻のもとに開講する6つのプログラムから構成される。

経営管理専攻

I 経営分析プログラム

20~30代の実務経験者や高度専門職を目指す学部新卒者を主な対象とした、少人数クラスのフルタイム・プログラム。経営現象を深く理解し、エビデンスに基づいて論理的に分析する能力を身につけることを主眼とするプログラム。(平日昼間開講/国立キャンパス)

II 経営管理プログラム

企業等に勤務しながら学ぶ若手・中堅の幹部候補者を主な対象にした、働きながら学ぶことのできるパートタイム・プログラム。「理論と現実の往復運動」を通じて経営者としての総合的な判断力・経営構想力を高めるプログラム。(平日夜間・土曜開講/千代田キャンパス)

III ホスピタリティ・マネジメント・プログラム

日本経済成長のカギを握るホスピタリティ産業の将来を担う高度経営人材を育成するためのパートタイム・プログラム。体系的なマネジメントの知識のうえに、ホスピタリティに固有の問題をとり上げて考察することで、ホスピタリティ産業のリーダーを育成する。(平日夜間・土曜開講/千代田キャンパス)

IV 金融戦略・経営財務プログラム

金融機関勤務または企業での財務・M&Aに携わる人材を対象にした、働きながら学ぶことのできるパートタイム・プログラム。最先端の金融理論と分析能力を身につけた金融プロフェッショナルを育成する。(平日夜間・土曜開講/千代田キャンパス)

国際企業戦略専攻

V フルタイムMBAプログラム

国際的なビジネスのプロフェッショナルを目指す社会人を対象に、ケース・メソッドを採用し、すべての授業が英語で行われるプログラム。国内外でのプロジェクトを通して、グローバルな企業経営の手法を体験できる。(平日昼間開講/千代田キャンパス)

VI EMBAプログラム

将来の経営幹部を育成するための1年間のパートタイム・プログラム。すべて英語で実施される。平日の短期集中講義・週末における対面講義に加え、オンライン講義も活用するプログラム。(千代田キャンパス)
このように高い専門性を備えた2つの専攻が実施する6つのMBAプログラムが他大学のビジネススクールにはない資産である。蜂谷研究科長によれば、「その資産を活かす意味で、コアになる科目はほぼ全員が必修に近い形にして、選択科目は各プログラムの学生が相互に履修できるようにしたいと考えています。経営管理を履修した学生が、金融についてもより専門的に学びたいと思うのは自然なことですから」とのことである。

社会人のビジネススクールへのニーズを考慮し、平日夜間・土曜に都心で学べる環境を整備

一橋ビジネススクールの特徴としては、6プログラムのうち5つが千代田キャンパスであること、またその5つのうち、「経営管理プログラム」「ホスピタリティ・マネジメント・プログラム」「金融戦略・経営財務プログラム」については、平日夜間及び土曜に開講されることが挙げられる。これは現在の多様なビジネススクールへのニーズに向き合った結果、と蜂谷研究科長は語る。
「もともと欧米でMBAができた時には、MBAを取得するために一度企業を辞めて、2年間スクールに通うことが一般的でした。現在では、フルタイム、パートタイム、1年制、エグゼクティブなど、多様なMBA教育が展開されています。日本でも、2年間会社を休んでフルタイムで学ぶというニーズのほかに、企業が自社で採用した人材をスクールに派遣する、つまり働きながら通って学ぶ、というニーズも多いんですね。この大きなニーズを満たすためには、やはりキャンパスは都心にあって、最寄駅から徒歩5~10分圏内で、というロケーションは欠かせません。そこで千代田キャンパスでも、マネジメントを広く学ぶ「経営管理プログラム」と「ホスピタリティ・マネジメント・プログラム」を新たに開講することにしました。こうすることで、平日の夜間でも、土曜でも、通学の負担を感じることなくプログラムに集中できる環境を提供したいと考えています」(蜂谷研究科長)

世界最先端の研究拠点で生み出される研究成果を実務家教育に投入

もう一つの特徴として挙げられるのが、経営管理専攻の中に研究者養成コースと経営学修士コースを併存させていることだ。一橋大学は世界最先端のビジネス研究の拠点であり、これまでたくさんの研究者や教員を養成してきた。その中で生み出される世界水準の研究成果を実務家教育に投入することによって、優れた経営人材を育成したいとの狙いがある。逆もまたしかりで、「実務から離れた研究はあり得ない」(蜂谷研究科長)。経営・マネジメントの現場ではどのような問題に突き当たるのか、実務家との交流を通して、研究者が現場感を研究にフィードバックできる環境でもあるのだ。こうした環境の下で、研究者養成コースの学生がTA(ティーチング・アシスタント)として、教員の講義を手伝うことを通して、ビジネス教育を学び、次世代の研究者・教員が育成されるという側面もある。
「研究成果を教育に投入し、教育での成果を研究にフィードバックする。このような相互交流によって初めて、最先端の研究拠点、そして世界に通じる実務家教育の拠点となることができます」(蜂谷研究科長)

自らの問題意識を経営学のフレームワークで解決できる、高度経営人材の育成のために

最後に、蜂谷研究科長は、母国語での教育の重要性を指摘した。もちろんツールとして英語を活用したプログラムは用意しているが、「母国語での教育を通して、より深い経営思考・戦略的思考を身につけてほしい」と語る。
「今流行のキーワードについて、表面的に学ぶのでは意味がありません。むしろ自らの問題意識に基づいて問題を設定し、それを解決するために、経営学のフレームワークを学んで仮説をたて、それを検証して解決策を見つけていく。それができるような高度経営人材の育成を行う。そして日本におけるビジネススクールの水準を上げ、さらに国際競争力を高めたいと考えています。そのためには『働きながら学びたい』というニーズにも応える必要がありますし、プログラムも物理的環境も世界に伍するものでなければなりません。今は日本企業でも、MBAプログラムを学んだ人材に最適な職場を提供する動きが出始めています。このような大きな変化の中で、一橋ビジネススクールが用意した新しい選択肢を、たくさんの学生に活用してほしいですね。そして、欧米のビジネススクールがアジアの拠点との連携を検討する際に、真っ先に名前が挙がるビジネススクールとなることが当面の目標です」(蜂谷研究科長)

「国際企業戦略専攻」が体現するダイナミックな「二つの世界の融合」

新たに開設される「一橋ビジネススクール」において、2つの専攻、6つのプログラムが開講されることは前頁で紹介した通りである。その中で「国際企業戦略専攻」(ICS〈International CorporateStrategy〉)は、フルタイムMBA、在職しながらMBA学位が可能なエグゼクティブMBA(EMBA)、DBA(Doctorof Business Administration:経営学博士)という3つの特色あるグローバル・プログラムを提供する。
もともと一橋ICSは日本初の専門大学院として、「二つの世界の融合」(TheBest of Two Worlds)というミッションのもと、国際的なビジネスのプロフェッショナルを養成してきた。さまざまなバックグラウンドを持つ学生が世界から集まり、授業はすべて英語で実施。教育手法では世界のビジネススクールで広く用いられるケース・メソッドを採用し、ナレッジ・マネジメントなど他のビジネススクールにはない特色ある授業を必修としている。また、2012年からは世界のビジネススクール29校で協定を結んでいるGN A M(Global Network for AdvancedManagement)に、日本代表として参加。各国の学生とともに集中講義やプロジェクトを行ってきた。さまざまなリソースを持ち、国際的な評価の高いICSが「一橋ビジネススクール」でMBA・EMBA等の各プログラムを開設する意義について、国際企業戦略研究科長・一條和生教授は以下のように語る。
「ICSは『一橋ビジネススクール』において《グローバルなMBA》《グローバルなEMBA》《グローバルなDBA(博士課程)》の一大拠点となります。そして、一橋大学全体でのグローバル経営教育の推進という非常に大きな役割を担うことにもなるのです。『二つの世界の融合』(TheBest of Two Worlds)というミッションは根本的に変わることなく、よりダイナミックに実行できる絶好の機会であると考えています」(一條研究科長)

国内外の「Cスイート候補生」に向けた1年間のEMBAプログラム

EMBAプログラムについて改めてふれよう。このプログラムは1年間でMBAの学位が取得できるパートタイムのプログラムである。将来経営幹部になると目されている30代後半~40代前半のビジネスパーソンを対象に、対面講義とバーチュアルクラス(オンライン講義)で構成されている。ICSがMBAプログラムで培ったノウハウを最大限に活用した「日本初の本格的なグローバルEMBA」として、15人の学生を対象にスタート。
実際に集まったのは「狙い通りの理想的な学生」(一條研究科長)だった。30代後半~40代前半、日本人と外国人は半々で、女性も3人含まれている。さらに、企業派遣の学生と、自薦(自費)による学生という構成になったことについても、一條研究科長は重要視している。オンライン講義は意図的である。何故ならば、ネット上の議論をマネジメントする力が、これからのエグゼクティブには求められるからである。
「企業から派遣された学生は全員、その企業における将来のCスイート(CEO、CFO等の経営幹部レベル)候補生です。現在のタイトル(役職)はさておき、5~10年の間に経営幹部になることを期待されている人材が集まりました。また、海外現地法人のトップになるというミッションのもと、インドやドイツからICSのEMBAに参加している外国人学生もいます。
他方、自費の学生について言えるのは、全員『自分は経営者になる』という強い意欲を持って参加していることです。もちろん企業派遣の学生もそうですが、このような意欲を持った学生の参加は、欧米のビジネススクールでは当然のこと。ですからEMBAプログラムは日本だけではなく世界にも誇るべきプログラムだと自負しています」(一條研究科長)
またEMBAの教育は世界各地で行われる。2018年4月にはアメリカ・シリコンバレーでも、デジタル化・AI化の最先端を担う教育拠点として有名なSingularityUniverisityで集中講義のグローバル・イマージョン・セッションが開催される予定である。

説明会の様子1

説明会の様子2

GNAM各校とのネットワークを活用し、デジタル変革にも積極的に取り組む

世界を相手に、世界一のプログラムを提供する。このスタンスを徹底的にプログラムに反映するため、さまざまな取り組みが実施されてきた。一例として、フルタイムMBAでのグローバル・パートナーとの連携を活かした2つのセッションが挙げられる。
まずはGNAM各校が趣向を凝らした集中講義を行う「グローバル・ネットワーク・ウィーク」。ICSの学生はアメリカ、チリ、イスラエル、トルコなど世界に出かけて行き、ICSにも世界のさまざまな国々から学生が集まった。また、2015年11月からは、GNAMのメンバーであるカナダのUBC Sauder School of Businessと連携してGlobal Network Projectというプログラムもスタート。企業から提案された社会的インパクトのある課題解決に取り組むグローバルなプロジェクト型の授業で、3か月にわたって行われている。
またその際には、デジタル教育が効果的に活用されている。教室とWeb双方のシナジーを活かした「ブレンデッド・ラーニング」を目指して、「海外と東京」という離れた拠点をつなげてWeb上でグループワークを行っている。
「たとえば2016年のGlobal NetworkProjectでは、Web会議システム『Zoom』を活用、学生同士、または講師と学生がWeb上でディスカッションを行いました。今後は『ブレンデッド・ラーニング』をさらに強化していくために、新たにWebを活用した教材開発のための専用スタジオも開設しました。これもまた『TheBest of Two Worlds』というミッションを具現化した取り組みなのです」(一條研究科長)

説明会の様子3

スタジオ写真

(2018年1月 掲載)