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一橋大学・産総研イノベーションセミナー

2018年8月29日 掲載

企業成長のために必要な知識・考え方をコンパクトに学べる機会を提供。

セミナーの様子

平成29年11月30日(木)・12月4日(月)・12月14日(木)の3日間、「一橋大学・産業技術総合研究所イノベーションセミナー」が開催された。一橋大学は、産業技術総合研究所(以下、産総研)と平成28年10月に「文理共創」を軸とした産学官連携・協力に関する協定を締結した。以降、この協定に基づき、それぞれの強みを活かして連携することによって、日本発のイノベーション創出への貢献を目指して活動を進めている。今回のイノベーションセミナーは、両者の連携の一環として開催された。イノベーションによる企業成長のために必要な知識・考え方をコンパクトに学べる。そんな機会を提供することが、セミナーを開催した大きな目的だ。全国から参加した企業は8社。参加者の多くが社長、副社長など経営に携わっている。3日程とも朝9時30分から最大18時までと終日のセミナーとなる。日々の経営を行いながらこのセミナーへの参加を決断した点に、問題意識の大きさと並々ならぬ覚悟がうかがわれる。

一橋大学、産総研などの講師陣によって3日間にわたって行われたプログラム。

セミナーの様子2

講師は、一橋大学、産総研、そして産総研のネットワークの中から民間企業の代表2名が登壇した。
一橋大学からは、一橋大学理事・副学長の沼上幹教授、一橋大学大学院商学研究科の鷲田祐一教授、同じく一橋大学大学院商学研究科の西野和美准教授。産総研からはフェロー・工学博士の瀬戸政宏氏。産総研のベンチャー開発・技術移転センターが起業を支援した株式会社ミライセンスからは、代表取締役の香田夏雄氏。産総研の高周波標準研究室との共同研究を行っているスタック電子株式会社からは、社長の新川雅之氏。このような多彩な講師陣によって、以下のようなプログラムが進められた。

第1回(11月30日・木) オープニング講演
未来洞察ワークショップ(グループワーク・発表)
第2回(12月4日・月) デザイン思考ワークショップ(グループワーク・発表)
テクノブリッジ・ワークショップ1&2(事例紹介と質疑)
第3回(12月14日・木) 経営戦略の基礎(講義)
経営分析の基礎(講義・分析)
ビジネスモデルの設計(講義・グループワーク・発表)

各社のイノベーションに向けた活動の促進、さらには新製品・サービス開発、新事業創出に有用となるような経営学の基礎知識、および経営分析、未来洞察、デザイン思考の手法を習得。グループワークなどを通して、より実践的に学べるように工夫されていることがこのプログラムの特徴である。

文理共創によるイノベーション創出に向け一橋大学・産総研が関係を深めていく。

グループワークの様子

グループワーク(資料を手元に)

今回イノベーションセミナーが開催された背景には、ネットワークづくりという側面もある。参加者同士のネットワークづくりもさることながら、主催した一橋大学・産総研双方がパートナーシップを深める機会ともなった。「新しい技術を世に出すときは、損害賠償など法律の問題を避けて通れません。産総研の研究者や顧問弁護士ではとても応えきれない相談もあります。そんなときに一橋大学の方々を紹介できるようになりました」(産総研・フェロー 瀬戸政宏氏)「我々は企業からの相談に対して、数字・戦略など経営面のコンサルティングにとどまりがちです。産総研とのパートナーシップを強化することで、技術面との融合を図り、真の意味でのトータルコンサルティングができる可能性が広がりました」(一橋大学大学院商学研究科 西野和美准教授)「技術は、相手がマーケットです。産総研と今回のようなセッションを行い、技術領域のネットワークを広げることは、一橋大学の社会的信用力をさらに上げることになると期待しています」(一橋大学大学院商学研究科 鷲田祐一教授)文(一橋大学)・理(産総研)共創によるイノベーション創出に向け、「イノベーションセミナー」の展開には今後も注目したい。

新しい「橋渡し」の機会をぜひ有効活用してほしい

瀬戸 政宏

瀬戸 政宏

国立研究開発法人
産業技術総合研究所
フェロー/工学博士

今回初のイノベーションセミナーを開催するにあたり、参加された企業の方々には、講演やワークショップを通して経営理論を学んでいただくことを主眼としています。私たち産業技術総合研究所(産総研)はサブ、あくまで一橋大学がメインと考えました。
今まで産総研は多くの企業から技術的な相談を受け、企業同士を接続したり、企業と一緒にベンチャーを立ち上げたりすることで新しいビジネスを創出してきました。しかし、産総研の研究員では対応しきれない相談もあります。その際には産総研が持つネットワークを活用し、理研、情報通信機構、理系の大学などをご紹介することで、一流の技術者と出会うためのハブの機能も果たしてきたのです。
今回の共同開催を機に、一橋大学にもそのネットワークに参加していただき、経営戦略面での相談を橋渡しできたらと考えています。また、主催者側である一橋大学・産総研と企業の方々とのネットワークももちろんですが、このセミナーを通して企業の方々同士がつながり、有益なコネクションへと発展させていただけたら幸いです。今後も定期的に新しい「橋渡し」の機会を設け、有効活用していただきたいですね。(談)

「オープン・イノベーション」を一橋大学の新しいメニューに

鷲田祐一教授

鷲田祐一教授

一橋大学大学院商学研究科

今回のイノベーションセミナーは、参加された企業のオープン・イノベーションにつなげてほしいと考えて企画しました。単に既存の工場の生産性を上げるため...にということでは面白くありません。今までとは違った発想でまったく新しいものを生みだす。その機会をつかんでいただくために、決裁権を持った社長、あるいは経営ボードに近いポジションの方に集まっていただきました。すでにユニークな技術やアイデアを持ち、それらをどう活かそうか考えている方。間近に迫った事業承継を機に、自分の代から新たな領域へ踏みだそうと考えている方。そういった方々に、産業技術総合研究所と我々一橋大学を活用していただければ幸いです。
今回は第一回目ということもあり、手探りの部分があることは否めません。ですが次回以降については、すでにさまざまなプログラムを検討中です。たとえば、一橋大学側からは、商学や経営学の領域にかぎらずさまざまな学部・研究科から講師を招く。場合によっては学生に参加を要請し、若者や消費者という立場からワークショップで発言してもらってもいいかもしれません。その結果、「オープン・イノベーション」を一橋大学の新しいメニューにできればと考えています。(談)

今後は「新しい技術×サービス業」などのコラボも図りたい

西野和美准教授

西野和美准教授

一橋大学大学院商学研究科

中堅・中小企業の方々は、どうしても日々の業務に追われてしまいがちです。そんな皆さんがいったん立ち止まり、自社の可能性を再確認した上で未来に向かっていただきたい。今回のイノベーションセミナーには、そんな願いが込められています。
自社の可能性を自力で押し広げていける企業ばかりではないでしょう。自社を知り、他社との差を再確認した結果「何かが足らない」となれば、産業技術総合研究所、我々一橋大学、そして一緒に参加した企業の方々と、広い意味でのコラボレーションを行い、最終的にはイノベーションにつなげていただきたいと考えています。また、具体的にどのようなサポートができるか、触媒として活性化できるかという意味では、我々が教えていただくことも少なくないでしょう。
今回の参加企業はほとんど何らかの技術を持っていますが、今後はもっと多彩なコラボレーションを想定しています。たとえばサービス業。少子高齢化でさらなる人材不足が予測されるサービス業では、業務効率を上げるための技術が必要になっています。しかし具体的な解決策がわからない。そんなサービス業の方々にも参加していただき、何らかの気づきを提供できたら幸いです。(談)