海外旅行のための医療知識

海外旅行のための医療知識

1.出国前に

薬を常時使用したりときに薬を服用する可能性のある人は、外国では薬物の入手が困難で商品名も変わっていることが多く、信頼できる薬が直ちに手に入るか不確実である。日本国内で必要な自分が使用したことのある薬を準備しておくことが望ましい。

粉薬は麻薬などと紛らわしく、税関でチェックされて不愉快な思いをすることなしとしない(実はそのような例を聴くことはないのだが)。保存上も錠剤が望ましい。粉薬でなくては駄目な場合、医師の説明と連絡先を書いた英文のメモを添えておいたほうがトラブルがすくないだろう。

長期の旅行では、出国前に全身状態のチェック=血液検査(献血後にも教えてくれる)をしておくと自分の標準値が解り、肝機能が悪化していても旅行と関連があるものか概ね推測可能であり有益なことがある。

予防接種については国ごとに要求項目が違う。保健センタ-に相談して欲しい。同時にいくつもの注射はできないので、計画的に実施する必要がある。短期滞在であっても破傷風は予防効果が確実であるのでこの機会に接種することを勧める。(破傷風は土中の嫌気性細菌である破傷風菌が深い刺し傷などで感染し呼吸困難、筋肉けいれんなどで致命的な転機をとる疾患である)

2.海外で

1)不眠・疲れ

場所が変わると不眠の人がいるが、軽い精神安定剤が有効なことがある。国内で一度効き具合を確かめて持っていってもよい。基本的に疲れは、寝ることと食べることで解消されるモノである。食べられなかったり寝ても解消されない疲れは、要注意で更に念入りに検査する必要がある。

折角の機会であるからと無理な欲張った計画をたてると疲労しやすい。交通事故などもそのような時に遭遇しやすい。外国の海での水泳なども事故の例を聴くことがある。

2)事故防止のために

海外での死亡事故の3/4は交通事故・飛行機事故・溺死・殺人に巻き込まれることなどである。
a.小さな自動車やバイクなど保護部分のすくない乗物を使用しない
b.可能ならシ-トベルトをすること、トラックの荷台にのって旅行しないこと
c.不定期な小さな飛行機を使用しない
d.飲酒後水泳をしない
e.夜間の移動を避ける
f.単独旅行を避ける

3)身体健康の注意

インド東南アジア地域は、各種伝染病の多発地帯である。飲み水はもちろんのこと、その他の飲食物飲料などにも注意を払う必要がある。たとえば、アイスクリ-ムや氷、生野菜など。さらにポット・コップも汚染されている可能性もあり、本学学生で、生水等は注意していたが、缶入りミネラルウオ-タ-に氷をいれて飲み、急性下痢症を起こした例があり、検疫で偽申告したが、あとで寮の消毒等大騒ぎになった例があった。豪華なホテルや病院であっても水が清潔であるか保証できない。  

水道の水がそのまま飲めるのは、シンガポ-ル、シドニ-、アメリカ、カナダ、ロンドン、モスクワ、ベイル-ト(現在は不明)である。 ロ-マ、パリ、ブリュッセル、ソウル、ペキンなどは硬水のため、下痢することがある。

経口感染を防ぐには細菌を1箇たりとも入れないということでなく(それは不可能)大量濃厚感染を防ぎ少量は体力抵抗力で防ぐということである。手を石鹸で3回繰返し洗い流すこと。怪しいものはとらないことである。川魚や生肉などは、寄生虫幼虫汚染の恐れがある。

症状とその対応 

A.下痢が主症状の場合

下痢といっても、程度、おり方、随伴症状の有無で以下のような種類があるが自己判断は禁物である。あくまで一つの目安のためのメモであり、必ず専門家の診療と判断を受けないと危険であるので注意して欲しい。

  1. 飲食後、数時間で始まる場合
    食中毒が考えられる(生物、魚介類。肉製品などの汚染)
    下痢に先立ち、度々吐き気、嘔吐あり、腹痛、中等度の熱(ブドウ球菌毒素性、腸炎ビブリオ、サルモネラなど)
  2. 感染後、2~3日の潜伏期で発症した場合
    コレラ、赤痢菌の感染の可能性あり。伝染病なので放置できず、届け出ないと周囲にも拡がり迷惑をかけることになる。
    1. コレラ
      典型例では2日目から大量の水様の下痢で始まり、 嘔吐もある。熱はあまりでない。
    2. 赤痢
      頻繁な下痢(粘液血液が混じることが多い)。しぶ り腹のため腹痛あり。熱はある場合もない場合もある。
      いずれも東南アジア地域に多い。
  3. 感染後。1週間目以降に発症した場合
    腸チフス(法廷伝染病)、アメ-バ赤痢、鞭毛虫症など。特に腸チフスは、はじめ発熱だけで始まることが多く、風邪がこじれたと軽く思うケ-スが多く、本学の感染例も2・3名いるので要注意。
    高熱が出、下痢を示すのが典型例。最近はひどい熱の出ないこともあるので注意して欲しい。東南アジア、特にインドでは高率。多くは帰国頃とか、帰国後に発症するので、検疫で必ず申告するとか、帰国後なら、都立病院又は保健所に届け出、受診すること。

B.発熱が主症状の場合

いわゆる風邪(急性ウイルス上気道炎)のほか、上述の腸チフス、マラリアなどがある。  高熱が3日毎に繰り返されるのはマラリアの可能性。  ミャンマ-、タイ、インドシナ、アフリカ、ニュ-ギニア、インド高地での発熱の場合には、酸素不足から肺炎→死につながることもあり、放置できない。水分補給、解熱剤、低地に下りることが必要。


4)薬など何をを持っているとよいか。

3.帰国時の注意

解熱剤、整腸剤、抗生物質、抗生物質含有の点眼剤、消毒薬、絆創膏など、体温計(何人かに1つでよいだろうが)便秘薬、ビタミン剤。

飛行機内では、症状を申告する。虚偽を申告すると後で周囲の人まで、検査、足止め、消毒など迷惑をかけることがあるので、下痢・発熱など、正直に記載すること。  

成田で検査せず、帰宅先の保健所で行うこともある。帰国後1週間ぐらいは連絡のとれるところにいるべきである。万一発病していれば移動先などを申告しなければならないので、あまり動き廻らぬ方がよいだろう。  

特に、寮生活の場合、下痢等あれば保健センタ-に相談してほしい

4.病気の知識

以下、各病名ごとに簡単にまとめたが、症状が典型的でないことも多く、あくまで目安であり、症状のみでは確定診断はできない。細菌検査、血液検査も含め総合的診察の結果、結論がでるものである。

くれぐれも自己判断のみで安心して、医療機関受診を遅らせることのないように、注意を喚起しておきたい。

旅行者下痢 (TRAVELLER'S DIARRHEA)
旅行中に、下痢を示すことはまれではない。
硬水によることもあるが、帰国後下痢を呈する旅行者の60%から下痢原因細菌が検出されている。  現地到着後1週間以内、潜伏期は約3日で、急に始まる下痢、時に腹痛を伴う、嘔吐もあり、3~4日で治る。  
便の性状の観察をして、血液の混入(blood stool)や、発熱などあれば他の感染症が考えられる。  
対症療法的には塩分喪失を伴った口乾脱水症状を示すので、水分塩分の補給。
食中毒 (food poisoning)
  1. ブドウ球菌毒素性食中毒  
    調理者の指の傷などからの汚染された、肉卵製品など摂取後、1~ 8時間後の激しい嘔吐、吐き気、下痢、腹痛。熱はない。
  2. 感染性食中毒

    a.腸炎ビブリオなど生の魚介の接収摂取後、6~48時間後の上  腹部 の痛み、下痢(時に粘液を交えた血性便)。発熱あり、嘔  吐は著明 でない。  
    b.サルモネラ胃腸炎   
    肉卵乳製品の摂取後、むかつき、嘔吐、腹部全体の痛み、下痢   (粘血便、緑便)、発熱。2~5日で治る。
    フィリッピン、タイ、韓国で感染例あり。

腸チフス (typhoid fever)
日本では年間120人の発見例があるが、一橋大学は2年に一人の腸チフス感染をだし、国内では希に見る濃厚危険区域である(?)。  
保菌者との直接の接触や、便により汚染された食品の摂取により感染する。海外旅行3万人に一人の危険性ある。ただし、インドではその10倍。潜伏期は7-14日。1週間以上の40度程度の高熱の持続は、腸チフスを疑っておく必要がある。熱に比較して脈拍の増加が見られない。便秘のことが多いが下痢の例もある。腸出血や穿孔など重大な合併症の可能性あり。  多発地域は、インドネシア、韓国、インド、パキスタン。
細菌性赤痢 (bacillary dysentery)  
海外からの輸入例は、年間300人程度。 赤痢菌(Shigella〓志賀潔)潜伏期は2-4日、1週間で軽快する。症状としては、左下腹部に多く見られる腹痛、38度前後の発熱、下痢(膿粘血便)、便意頻発、熱がほとんど無い軽症例もある。 多発地域は、韓国、インド、タイ、フィリッピン。 
アメ-バ性赤痢 (amebic dysentery)
潜伏期は、1週間から数か月。食欲不振、腹部不快感、膨満感あり。発熱はすくない。慢性化することもある。  日本への輸入例は、西南アジア、台湾、中国、韓国、タイ、フィリッピン
ランブル鞭毛虫症
潜伏期7~21日の後、長期に続く下痢、軟便、食欲不振、上腹部痛あり。
旅行者下痢として、インド、ネパ-ル、メキシコなどでもある
コレラ  (chorela)
潜伏期2日、急激に大量の水様便(WATERY DIARRHEA)、嘔吐ではじまり熱、腹痛は見られない。脱水症への輸液療法が主。エルト-ル型コレラが主。 インド、インドネシア、ベトナム、フィリッピンなどが流行地。(日本の江戸末期のコレラ騒動は、手塚治虫の漫画にくわしい)
マラリア (Malaria)
世界最重要の伝染病である。ハマダラカにより媒介される。流行国でも、都市部では感染の危険はすくないといわれる。予防薬も副作用と効果のバランスを考慮して使用すべきである。ファンシダ-ルは重大な副作用があり、予防的には使用され無くなった。症状は周期的な高熱悪寒(大岡昇平の俘虜記にくわしい)、貧血、脾腫。
流行地は、熱帯アフリカ、ミャンマ-、タイ、インドシナ丘陵地、パプアニュ-ギニア、インドなど赤道近辺1000メ-トル以下の年平均15度以上の低地で見られる。 旅行地の情報を入手しておくこと。WHOも有用。
エイズ (AIDS)
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染によっ発症する、後天性免疫不全症候群のことである。1990年末までに、全世界に30万人以上の患者が報告されている。  
性行為や、血液媒介によって感染する。発展途上国では、血液製剤の検査が不備であるので、事故の場合に注意すること。  
感染機会から6~8週間後に、抗体が出現し、血液検査で判定可能である。有効な治療法は現在のところない。予防が第一である。

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