一橋教員の本

賄賂はなぜ中国で死罪なのか

賄賂はなぜ中国で死罪なのか

王雲海
国際書院 2013年1月刊行
ISBN : 978-4-87791-241-3 本体2,000円+税

刊行時著者所属:
 王雲海(法学研究科教授)

著者コメント

 今の世界では、中国は最も死刑を多く用いており、公務員の収賄罪も死刑の対象とされている。なぜ中国で収賄罪が死刑になるのであろうか。米、日との比較を通じてそれを解明しようするのは本書である。
 まず、米、日、中のそれぞれの法律(条文と判例)上の賄賂罪の違いを明らかにする。同じ賄賂罪といっても、米国法は収賄罪と贈賄罪とは全く区別せずに同じく懲役刑を設けている。それに対して、日本法は贈賄罪と収賄罪をきちんと区別し、収賄だけをより重い刑罰を定めている。中国法は贈賄罪と収賄罪を区別するのみならず、賄賂紹介罪もあり、収賄罪だけに死刑を適用している。
 次に、上述した相違の原因、特に中国で収賄罪への死刑適用の理由を析出する。同じ賄賂罪といっても、それを犯罪する動機(保護法益)がそれぞれ違う。米国法は、政府・権力と市場の分離による「市場競争の健全性の維持」から賄賂を一種の経済犯罪とするので、贈賄と収賄とは区別し、公務員だけを重罰する理由はない。それに対して、日本法は、公務員への国民からの信頼を保つための「公務員の人格模範性」から賄賂を一種の文化犯罪とするので、贈賄の民間と収賄の公務員をきちんと区別して、より高い立場にある公務員をより重く処罰するのである。中国法は、党こそ人民利益の代弁者・奉仕者であることに基づく「一党支配の正統性」から賄賂を最も厳重な犯罪である政治犯罪・体制犯罪の一種とするので、この正統性に直接傷づける収賄側の公務員だけに厳罰し、死刑をもって対処するのである。
 このように、規範法と政策法の両面から比較的に中国における収賄罪への死刑適用の本当の理由を解明したのである。



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