一橋教員の本

契約における自由と拘束 : グローバリズムと私法

 
 

契約における自由と拘束 : グローバリズムと私法

 小野秀誠著
信山社出版   2008年8月刊行
ISBN:9784797225440   本体14,000円+税
 刊行時著者所属:小野秀誠(一橋大学大学院法学研究科)

著者コメント

近代法は、中世法とは異なり、神ではなく、人の意思を法律関係の基本においた(私法の自己完結性)。そして、意思や合意により基礎づけることができないものは、基本権として構成された。このような体系は、近代の国民国家の形態とも一致するものであったから (社会契約説や主権の概念) 、広く受け入れられたのである。こうして、契約の自由と所有権の絶対は、近代私法の基本原理とされた。契約の自由は、近代私法の要件の1つであったが、そこからくる弊害である実質的不平等の克服も、長く試みられてきた。契約の自由も必ずしも絶対ではないことから、その制限も、近代民法の歴史と同じくらいに古い。そして、19世紀には、賃借人や労働者の保護などが確立した。その基礎になっているのは、やはり基本権(人権・人格権) の思想である。グローバリズムは、近代初頭における無制限な契約自由の主張の再来ともいえ、国民国家に根ざした基本権からの制約を 否定しようとする。普遍的な基本権は、なお生成途上にある。そこで、国内法による基本権のほかに、あわせて国際的な規制(地域的な統一も含め)や自律的スタンダードの構築が考慮される必要がある。
実質的意味の民法においても、「消費者」、「事業者」、「専門家」の概念が登場し、契約への拘束を形成しつつある。新たな概念は、19世紀的な財の多寡を理由とするものとも異なり、人の社会的機能からの属性に根ざした考慮にもとづく。19世紀までの法の理念が「身分から契約へ」であったのに対し、「契約から地位へ」である。当事者の地位に着目する専門家の責任や種々の安全配慮義務も登場した。これによって古くはせいぜい賃借人や労働者など一部に限られた保護の対象が、患者、注文者、買主、借手、委託者、委任者、学生、受講者、利用者、障害者、高齢者など広い範囲に拡大された。
本書は、このような近代私法の変遷と課題を追うものである。また、利息制限法と法曹養成制度の現代的問題をも対象とする。



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